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第335話
教室まで悠介に送られて、いざ中に入ると緊張して体がいつもみたいに動かんかった。
席に着いて、誰にも気づかれへんように小さく息を吐いて膝の上で拳を握る。
「──楠本」
「っ!」
クラスメイトに話しかけられて体が大袈裟に震えた。
前の悠介がクラスメイトのベータに怒った時から、からかわれたりすることは少なくはなったけど、無くなってはいない。
何を言われるのかわからんし、この前襲われたことを言われたなら、辛くなるのはもう既に分かっていたから、体にぐっと力が入る。
顔を上げるとネクタイが目に入って、荒くなりそうな呼吸を抑えて相手の顔を見た。
「······高良に話があるんだ。その事を高良に伝えて欲しい」
「······え?」
考えてもみなかった話で反応が少し遅れる。
悠介に話?それならさっき話しかけたら良かったのに。
「この前あいつが怒ってるところ見て、なかなか自分から話しかけれないんだよ。頼む」
「······いい、けど。名前は?」
「筒井だ。ていうか同じクラスなのに覚えてねえのかよ」
「ごめん」
でも話したことないんやから仕方ないと思うけど。
「あの······放課後でいい?生徒会もあるから、ちょっと遅くなるかもしらんけど······」
「いいよ。その代わり時間潰し付き合って」
「え······あ、わかった」
頷いて、スマートフォンを取り出し今話したことについて悠介にメッセージを送った。
すぐに返事が来て、その画面を筒井に見せる。
「いいよって」
「おう。サンキューな」
いつの間にか緊張が解けていた。
筒井が離れていって、まだ持っていたスマートフォンの画面を見る。
「············」
さっき別れたばっかりやけど、もう悠介に会いたい。
それがちょっと恥ずかしい。
でもそう思える自分が少し成長したんやないかって、そんなふうに思えた。
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