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第336話

放課後になって筒井と待ってると、走ったのか悠介が息を切らしながら教室にやって来て、勢いよく俺に抱きついてきた。 「旭陽ぃっ!生徒会から抜け出せたよ!」 「······それは······あかんのんとちゃうの?」 「だって旭陽に会いたかったんだもん。キスしよっか、ほら、ちゅー」 「んんっ!も······ちょっと、やめて!」 筒井が目の前におるのに。 慌てて悠介の胸を押して離れさせた。筒井はポケーっと俺達を見てる。 「は、話あんのやろ!?さっさとすれば!」 「あ······悪い。」 「何の話?わざわざ旭陽を使って俺を呼び出すなんて。俺は少しでも旭陽と2人でいたいのに。」 筒井は苦笑を零して悠介をじっと見る。 「2人で話したい。」 「······旭陽、ちょっと待っててくれるかな。」 話、俺だって聞きたいけど、目の前でわざわざそう言うくらいやから、仕方ない。 「わかった。でもすぐ帰ってきてよ」 「うん」 筒井と悠介が教室を出て行く。 その背中をぼんやりと眺めて、見えなくなってから机に顔を伏せた。 「······はよ帰りたい」 小さく言葉を呟く。 誰も拾うことの無いそれは、直ぐに消えていった。 30分くらいして、やっと帰ってきた悠介。 「ごめんね」って言いながら俺の頭を撫でる。 「遅すぎ」 「うん、ごめん」 「······許さん」 立ち上がって机に掛けていたカバンを手に取る。 ふん、と悠介を無視して帰るために教室を出ようとすると、カバンを持っていた手を引っ張られて、転けそうになった。 「ちょ、っと」 「怒らないで」 席に戻らされて、机の上に座らされる。 椅子に座った悠介が、下から俺を見上げた。 腰を掴まれていて逃げられへん。じっとその目を見つめ返す。 「寂しかったの?」 「············」 「あれ、言えないの?旭陽のお口無くなっちゃった?」 「······馬鹿にすんなよ」 誰もいない放課後の教室。 何故かちょっと、嫌な予感がする。

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