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第375話
朝ご飯を食べた後、悠介と外に出ることになった。散歩したいって悠介が言うから、仕方なく。
「散歩したいって言うても、ここら辺なんもないからおもろくないやろ」
「いや、俺は楽しいよ。旭陽が育ってきた場所でしょ?だから知っておきたいし。」
そう言った悠介に、ちょっと胸がキュンってした。
「······なあ悠介。俺のお気に入りの場所知りたい?」
「えっ!知りたい!」
「じゃあ行こ。こっち」
悠介の手を掴んで道を歩く。俺が一方的に掴んでいたのに、いつの間にか指が複雑に絡み合って、離れないように繋いでいた。
「あのな、俺······小学生の頃からここにおんねんけど、その時から学校でオメガやって虐められててん。」
「······うん」
「それで、よく学校抜け出してさ、走って逃げてた場所。」
石畳の階段を上る。左右には気が沢山生えていて、ちょっと昔にタイムスリップしたみたいに思えるこの場所。階段を上った先には赤い鳥居があって、それを潜り抜けると古びた神社が見えた。
「ここ?」
「うん。よくそこに座って泣いてた。」
古い建物の階段の部分に腰を下ろす。
ここに来るといつも心が安らいだ。
「旭陽のこと、もっと知りたいな。」
「······じゃあ、話したげる」
隣に座った悠介。
手は繋がれたまま。
「でも、気分いい話ばっかじゃないよ」
「それでもいい。旭陽の話を聞きたい。」
悠介が俺をじっと見る。
俺も悠介を見つめ返して、それから小さく笑った。
「さっきも言うたけど、俺、小学生の頃は虐められとった。でもまだ、オメガのこととかよく分からんかったから、何でやろって1人で泣いてた。」
柔らかい春の風が吹く。
髪が揺れて、頬に触れるのがこしょばい。
「中学に上がったら、他の小学校の子らも一緒になるやろ?それでオメガの子と初めて知り合った。それが······タク。タクも小学校で虐められとったって。俺達はすぐ仲良くなった。」
懐かしいのに、悲しい。
今では俺はタクを許せなくなったから、それが切ないように思える。
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