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第380話 悠介side
***
何ですぐに追いかけられなかったんだろう。
旭陽の家から寮に戻り、考えるのはそのことばかりだった。
旭陽は俺の為を思ってああ言ってくれた。それはわかるけれど、嬉しくはない。だから体が動かなかったのか、それとも······
「ねえ、高良先輩!聞いてる?!」
「っえ、な、何っ?」
今は生徒会での活動時間。ぼんやりしていたら千紘ちゃんが俺の顔を覗き込んできた。
「だーかーら!体育祭!」
「あ、あぁ······それが何?」
「何?じゃないよ。ちゃんと話聞いててよぉ」
「あはは、ごめんね。怒らないで」
顔を上げて、立ち上がる。
「で、体育祭がどうかしたの?去年と同じで良くない?」
「去年は体育祭中にオメガが1人発情した。何とか対処できたが、もっと上手くやる方法があると思う。」
会長がそう言いながら、千紘ちゃんに手を伸ばして腰に抱き着く。引き寄せて自分の膝の上に座らせて、満足そうに笑っていた。
「とは言ってもさ、俺達は他にもすることがあるし、そればっかりに構ってられないでしょ。」
「俺も高良と同じ意見だ。そもそも人前で発情期を起こすのはそいつの自己管理がなってないという理由もあるだろ。」
東條が冷たくそう言うと、副会長も頷いて、それを見た赤目君が眉間に皺を寄せた。
「おい、それは仕方の無い事だろ。周期は確定してるものじゃねえし、体の調子によっては突然きたりする。」
「匡の言う通りだ。どれだけ規則正しい生活を送っていてもズレてしまうことがある。」
赤目兄弟はどうしてもオメガを守ってあげたいらしい。でも俺が守る対象はオメガではあるけれど全員じゃない。旭陽だけだ。
「なら赤目兄弟で色々考えなよ。オメガ集めて会を開いたら?発情した時はお互いで何とかしろってね。」
「······高良先輩なんか今日感じ悪い。旭陽先輩がいないから拗ねてるの?」
千紘ちゃんが嫌味を込めて俺に小さく笑いながらそう言う。それにイラッとしてしまった俺は座っていたソファーから腰を上げた。
「そうだよ。俺は会長と千紘ちゃんみたいにちんたらしてられないの。他人なんてどうでもいい。旭陽がいれば俺は幸せだから。」
「ちんたら?他人なんてどうでもいい?もし本当にそう思ってるなら、旭陽先輩は高良先輩に幻滅するかもね。」
旭陽が、幻滅?
俺に対して?
両親から与えられるストレスと、上手く事が運ばなくて不安な毎日。必死にそれに気付かないふりをして番である旭陽と離れ、生活をしている俺を怒らせるのには、千紘ちゃんの言葉は十分だった。
「······会長、あんたの番を黙らせて。じゃないと俺、本気で怒っちゃう。」
「······千紘、やめとけ。高良も疲れてるんだろう。今日は帰って休め」
「は?偉成何で!?」
「いいから。今日の千紘は意地悪だな。」
2人で言い合いを始めたのを横目に、俺は生徒会室を出て寮に戻った。
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