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第381話
苛立ちながら寮に戻り、ミネラルウォーターを飲んでソファーに沈む。
旭陽の事で頭がパンクしそうだ。
全ては旭陽が妊娠をすれば解決する。けれどそんな上手くいくわけじゃないし、そんなこと口が裂けても旭陽には言えない。
誰にも相談できない。
「くそ······っ」
どこにもやれない不安に押し潰されそうになっていると、スマートフォンが音を上げた。バッグから取り出し画面を見ると旭陽からの電話で、慌てて通話ボタンを押し耳に当てる。
「旭陽?どうしたの?」
「······悪いねんけどさ」
モゴモゴと話す旭陽。聞き取りにくいけど、しっかりと言葉を拾わないとと思い、意識を耳に集中させた。
「あの······は、発情期······きそう······」
「えっ!?」
「何か、体熱くて······それから、なんか······う、後ろ、から、ドロってしたの······でてきたり、してて······」
急いで体を起こし服を着替えて旭陽の所に行く準備をした。寮を飛び出してタクシーを捕まえる。
「まだ我慢できそう?大丈夫?」
「う······できる、けど······」
「家にお婆さんかお爺さんいる?」
「ううん、今なんか······旅行行ってて······」
このタイミングで旭陽が1人なのが不安だ。でも旅行に行っているなら、あの家で思う存分に旭陽を抱けるわけで、それは有難い。
「わかった。すぐ行くからね。待ってて」
「うん」
駅に着いて電話を切った。
気持ちだけが焦って、こんな時は本当に別々で暮らしているのが嫌になる。
結局旭陽の家に着いたのは電話から1時間半後。インターホンを鳴らしても一向に返事が無くて、玄関のドアに手をかけると難なく開いた。戸締りはきちんとして欲しい。
旭陽の部屋に足を向ける。一歩一歩歩く度に甘い匂いが濃くなっている。
旭陽の部屋のドアを開けると、ベッドの真ん中がボコッと膨らんでいて、トントンっと軽く叩くと布団から顔を出した旭陽が、辛そうな表情で「おかえり」と言った。
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