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第388話
このまま流されてたまるか。
怒られるべきなのは俺じゃない。
「いい加減にしろっ!!」
「っ!」
思い切り偉成の唇に噛み付いた。よろけで体を離した偉成は口元を手で覆う。
「何で俺がそんなことされないといけない訳!?」
思い切り怒鳴りつけると、偉成が軽く目を見開いて俺を見る。
「俺がムキになったのは悪かったと思う。高良先輩の味方をしたとか、そう言って偉成に詰め寄ったのは間違いだった。すごく子供だったと思う。」
口元から手を退けた偉成。噛み付いたそこから血が滲んでいるのが見えて、あっと思ったけど今は気にしちゃダメだ。
「でも······でもさ、少しくらい怒ったっていいでしょ。だって偉成は俺の番じゃん。1番俺を理解してくれてるはずでしょ?」
「······そうだな」
「俺が高良先輩に旭陽先輩が幻滅するとか······そんな酷いことを言ったのは悪かったけど、そもそも高良先輩がもっとオメガの事を考えてくれたらこんな事にはならなかった!高良先輩にだって旭陽先輩っていう番がいるんだから、オメガの事を少しくらい考えてくれたっていいじゃん!」
言葉が溢れて止まらない。
上手く伝わるかはわからないけど、伝えないよりずっとマシだ。
気持ちが高揚して自然と涙が目に溜まり頬を伝う。
「高良先輩、最近すごく······疲れてるんだろうなってのは見ててわかるし、旭陽先輩が居なくなって寂しい気持ちも分かる。でも、それとこれとは別だよ。」
「······千紘」
「何」
涙をぐっと手の甲で拭う。
何を言われるかわからない不安で、やけに緊張した。
「ちょっと······頭冷やしてくる。戻ってきたら、もう1回話そう。」
「······うん。俺も、頭の中整理したい。」
「さっき、腕······悪かった」
「それはいいよ」
お互いに少し気持ちが落ち着いて、俺はリビングへ、偉成は部屋を出て行き、少しの間それぞれの時間を過ごした。
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