403 / 876

第403話

電車に揺られながら、旭陽のことを考える。 早く、急がないと。 旭陽が不安に押しつぶされそうになっている。 夜遅く。俺以外に人のいないこの車両で、旭陽の名前を呟いた。 しばらくしてやっと駅に着いた。旭陽に電話をするとワンコールで出て、声を震わせて俺の名前を呼ぶ。 「もう着いたよ。大丈夫だからね」 「······うん」 「まだ不安?」 「うん」 即答した旭陽に、どうすれば安心してもらえるか考えて、軽く走りながら口を開く。 「俺がそこに着くまで、旭陽の好きなところ言うね」 「え、な、何それ······」 「まずは、笑顔が可愛いところ。」 「ちょ、ちょっと!悠介!」 慌てだした旭陽。でも少しでも旭陽の気が紛れるなら、そっちの方がいいと思って好きなところを言い続ける。 「んっ、俺も······俺も悠介の優しいところが大好き。」 「ふふっ、そうなの?旭陽が好きだから、優しくなれるんだと思うよ。」 「······悠介は、俺だけに優しくしてたらいいよ。」 普段そうでもない旭陽が、珍しく独占欲を露わにしてて、すごく胸がキュンキュンした。愛しすぎる。 「うん。俺には旭陽だけだよ。······旭陽、着いた。鍵開けて」 旭陽の走り出した音が聞こえて、思わずくすくすと笑った。そんなに焦らなくていいのに。 「悠介ッ!」 玄関から飛び出してきた旭陽が、すごい勢いで俺に抱きついた。よろけそうになるのを堪えて、俺より小さな体を抱きしめる。 「悠介、悠介っ」 「うん。待たせてごめんね。」 止まっていたように思えた旭陽の涙が溢れて頬を濡らしている。 抱きつかれてそのまま、ぶつかるようなキスをしてきて歯が当たり、痛みに呻きそうになったけど、それよりも旭陽が細かく震えていることが気になって、旭陽を抱き上げ、家の中に入らせてもらう。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!