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第407話
それから、これからの生活についての注意を受けた。
男性のオメガの場合、元は無い赤ちゃんを育てる部屋を形成し維持する為に番のアルファが常にそばに居る必要が有るらしい。
けれど俺はまだ寮生活を送っていて、その事を話すと医者は怪訝そうな顔をした。
「番との触れ合いが少ないと、オメガの体は母体と子供を守ろうと強制的に発情期を起こします。男性のオメガの妊娠で1番重要な事です。せめて安定期に入るまでは楠本さんのお家から学校に通ってみるとか······」
「そうですね。······そうします。」
旭陽が心配するように俺を見るけど、それに笑顔を返す。
「楠本さん。妊娠も、赤ちゃんを育てる事も、貴方が1人で全てを背負うんじゃなくて、番の高良さんにしっかり甘えてください。」
「はい」
そうして診察が終わり、待合室に戻る。
お会計を待っている間、旭陽は自分のお腹を撫でていた。
「不思議な感じ。ここにもう1つ命があるって······」
「本当だね。ねえ、俺も触っていい?」
「うん」
旭陽が頷いて、それを確認してからそっと旭陽のお腹に触れた。
「楠本さーん」
その時に名前を呼ばれて、俺はお会計をしに受付に行く。
俺が戻ると手を差し出した旭陽。その手を掴んで一緒に病院をでる。
「母子手帳ももらいにいかな」
「うん」
「なんか······すごい嬉しいのに、実感がない。嬉しくて嬉しくてたまらんのに、何でやろ。」
それは俺も答えることが出来ない質問だった。だから苦笑を零して旭陽を見る。
「悠介のお母さん達に言わんとね。妊娠したよって。」
「うん。でもその前に、旭陽のお婆さん達と、それから······お母さんにもね。」
そう言うと旭陽は柔らかく微笑んだ。俺は会ったことのない旭陽のお母さん。お墓に行って、ちゃんと手を合わせて報告しないと。
「そうやね。お母さん······喜んでくれるかな。」
「きっと喜んでくれるよ。」
顔を上げた旭陽に触れるだけのキスをした。
道端であることも、人目があることも気にせず。
「んっ!あ、あかんってば!外ではあかんの!」
「じゃあ家に帰ったらたくさんしようっと」
「······そ、そういうことでも、ないんやけど」
顔を赤くした旭陽。手を繋ぎながら、家を目指した。
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