421 / 876
第421話
週末になり高良先輩が帰ってきて、業者と一緒に引越しを済ませた。それに千紘と兄貴も手伝ってくれて、部屋もその日のうちに綺麗に整理整頓できた。
「引越し祝いだ。小鹿、どうか匡を末長くよろしくな。」
「あ、ありがとうございます。僕の方こそ、よろしくお願いします。」
優生が緊張しながら、兄貴から渡された物を受け取った。
「匡、ちょっと話がある。」
「ああ。」
兄貴に呼ばれ、千紘と優生を部屋に置いて兄貴と千紘の部屋に移動する。
「小鹿と番になったし、一緒に暮らすようになるんだ。そろそろ母さん達に会いに行くべきだと思う。」
「······そのつもり。近いうちに家に帰る。でもきっと上手く話せない。母さん達は俺をどう思っているのか、それもわからない。」
今も不安で仕方がない。
もし優生を認めてくれなかったら、今度こそ俺は2度とあの家には帰れない。
「母さん達はお前を心配してるよ。不安なら俺もついて行く。俺とももう何ともないってわかれば、母さん達も安心する。」
「わかった」
「······小鹿は、お前と母さん達の事を知ってるのか?」
兄貴の言葉に頷いて返事をする。
「俺がただ意地を張ってることも、全部伝えた。」
「······そうか。でも悪いのは匡だけじゃない。俺との間にあった確執みたいに、何かを勘違いしているのかもしれないから。」
兄貴は理由を知っているのだろうか。
多分、ちゃんと話したことはない。
「なあ、兄貴。」
「何だ?」
今でこそ、千紘が居て少し柔軟な性格になったと思うけど、兄貴だって前は俺の嫌いな人間だった。
「千紘に出会えて、番になれて、何か変わったと思うか?」
「変わった······?それならすごく思ってる。今の俺の方が千紘と出会う前より魅力的だろ。」
「······ま、まあ、そう、かな。」
魅力的だなんて、自分で言う言葉じゃない。
けれどそんな言葉を堂々と言ってしまえるのも、兄貴のいい所なのかもしれない。
「千紘も連れて行くか?もう千紘もうちの家族だからな。」
「は?」
「いや、書類上では違うけどな、俺と千紘は番だし、母さん達も千紘の御両親も認めてくれている。それならもう家族だろ?」
「······千紘は連れて行かない。情けないところを見られたくない。」
じっと兄貴を見て言うと、俺の気持ちを理解してくれたのか1度頷いた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!