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第438話 悠介side
旭陽の辛そうな顔を見ていると、できることなら代わってあげたいと思う。
「何か食べれそうなものない?」
「ぅ······」
「トイレ行こう。抱っこするよ」
旭陽の悪阻が酷くて、吐きそうなのか口を手で押さえている。そっと抱き上げてトイレに移動させると、すぐに嘔吐した。
最近はいつもこんな感じだ。学校がある日中はお婆さんが傍にいてくれているけれど、帰ってくると旭陽はいつも俺の服を着ている。それも俺が着た後のもの。
「うぇ······もう無理。気持ち悪い······悠介、抱き締めて······」
旭陽を抱き締めると、俺の胸に顔を埋める。そのままぐったりともたれかかってきた。
「まだ吐きそう?少し治まったなら部屋に戻ろうと思うんだけど。」
「······戻る。」
もう1度旭陽を抱き上げ、口を濯がせてから部屋に戻った。
ベッドに寝かせると、俺の手を掴んで泣きそうな顔をする。
「辛いよね」
「······学校、行かんで」
ボソッと小さな声で伝えられる旭陽の本音。
本当は俺に離れてほしくなくて、ずっと一緒にいたいと思ってくれている。
「休学しようか?少し······卒業が遅れるかもしれないけど。」
「あかん」
旭陽の目尻から涙が溢れる。
指先でそれを拭い、キスをすると首に腕が回される。
「あかんって、わかってるのに······ずっと一緒におりたい。悠介のおらん間はお婆ちゃんがおってくれるけど、それでも不安やねん。」
「うん」
旭陽の頭を撫でて、何度もキスを繰り返す。
長い間触れていると、旭陽も段々と落ち着き出して、身体を起こし、俺に心配させないためにか柔らかく笑う。
「ごめん、弱気なっとった。大丈夫やで。悠介は気にせず学業に専念して。」
「旭陽が辛いなら、俺は今とは違う選択ができるよ。旭陽の傍にいられる。」
「ううん、大丈夫。学校から帰ってきた悠介が、ただいまって言うてくれて、それから話したり抱きしめられたり、ちょっと触ってくれるだけで幸せやから。それで気持ちは落ち着くし。」
そんな姿がどうしても、強がっているようにしか見えなくて胸が苦しい。
旭陽が少しでも楽になるようにしてあげたいのに。
「わかった。でもお願い。無理はしないで」
「うん」
前より甘えてくれるようにはなったけど、その変化はほんの少しだけ。
俺はまだまだ旭陽を支えるだけの力があるのに、旭陽はそうしようとはしない。
少し······、いや、酷くもどかしい。
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