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第446話
家に帰り、兄貴の部屋のソファーに深々と座り息を吐く。
「で、話す決意は固まったか?」
「ああ。······発端は去年の夏休み。」
あの日起こったことを兄貴に話す。
厳しい表情をする兄貴は、話が終わると深く息を吐いた。
「胸糞悪い話だな。普通弟を兄が襲うか?それに家族はそれに何も言わないなんて······。匡、よくやった。」
「ああ、まあ、その時の決断は間違っていないと俺も断言出来る。けど······優生は今は1人だ。俺以外に頼れる人は今のところ居ない。このままじゃいけないって思わないか?」
そう言うと、兄貴は不思議そうな顔をする。
「何がいけない?」
「え······。いや、優生の家族と優生を引き離したのは俺だから······」
「引き離して当たり前だ。何もいけないことはないだろう。」
兄貴は真顔でそう言って、使用人にいれさせた紅茶を飲む。
「俺は千紘の家族と千紘を仲直りさせた。それは修復が可能だったから。千紘の父親は千紘に対して負の感情しか抱いてなかったが、手を出してはいなかったし、千紘という人間を理解す事ができる人だと思ったからだ。」
俯いた俺に、兄貴は諭すように話し続ける。
「だが小鹿の場合は違う。兄が弟に手を出した。それを知っていた両親は兄がアルファだからといって嫌がる弟を助けもしなかった。······小鹿はきっと、もう2度と家族のもとには帰りたくないだろうな。もしお前が小鹿を家族のもとに帰したなら、小鹿はお前に捨てられたと感じるんじゃないか?」
「そんなのわからないだろ。」
「ああ。わからない。俺は小鹿じゃないし、小鹿を深く知っているわけでもない。」
その癖に何もかもをわかったかのように話す兄貴に腹が立つ。
イライラしているのが兄貴に伝わったようで、ふっと鼻で笑われた。
「匡、短気はやめろ。周りが見えなくなるのはお前の悪い癖だ。もっと客観的に物事を見るんだ。」
「兄貴にはそれが出来ているってか?」
「間違いなく、お前よりはな。」
荒ぶる心を落ち着かせるように、ゆっくりと深呼吸した。
「まあ、俺から言えることは······お前がしようとしている行動が小鹿の為になるかどうかは、小鹿に直接聞くべきだってことくらいだな。」
「······」
「人は面と向かって言葉で伝えないと簡単に勘違いを起こす。その勘違いでお前が突っ走って拗れないように、ちゃんと小鹿と話せ。」
やけに説得力があるその言葉に、頷くしかなかった。
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