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第471話
「夏休みはずっと家おるの?」
「うん。母さんに呼ばれた時だけ帰るつもり。」
「あ······そっか。跡取りやもんね」
「まあ、一応。」
自分の家の手伝いもあって大変やなって思う。
しかも手伝いとは名ばかりで、仕事をしてるのを知ってる。
「悠介の仕事は大変?」
「今の俺が任される仕事は大変なものじゃないよ。ちょっとした手伝いなだけだし。」
ほんまにそうなのか、悠介がアルファで優秀やからそう感じるだけなのか。
「ふーん?」
「それよりさ、旭陽にお願いがあるんだよね。」
「お願い?何?」
悠介からお願いされることなんて滅多にないから嬉しい。
前のめりになって聞くと、悠介は苦笑を零した。
「あのね、俺が卒業したら、俺と旭陽と俺達の子供で暮らす家が欲しいんだ。」
「······ん?」
「物件はこの夏休みで見てくる。何個かに絞って、その中から旭陽に決めて欲しいんだ。壁紙だったりカーテンとかも色々。」
「ま、待って?家買うの?」
なんか、もっと現実味のある話やと思ってたのに違うかった。
「うん。今まで仕事を手伝っていた分でお金は十分あるしね。」
「······そんなに稼いでたん」
「まあ、それなりに。」
えへ、と笑った悠介に何の反応もできひん。
そんな稼いでたなんて······。俺はほとんど何も持ってないのに。
「なるべく旭陽の家から近いところにね。」
「それは嬉しい、けど······。俺もお金稼いでからにしてくれへん?」
「何で?」
「何でって······。やって、悠介ばっかりに何でもかんでもしてもらいたくない。平等でおりたい」
悠介は心底不思議そうな顔をする。
「平等だよ?」
「平等ちゃうやん。悠介にばっかり負担かかってる。」
「何言ってるの。旭陽は子供を産んでくれるんだよ。体にも心にもストレスがかかる。俺なんかよりずっと大変だ。それに子供もしんどい思いをするって聞いたことがある。俺はそんな旭陽と子供がゆっくり休めるようにしたい。」
こんな真剣な話をここでするつもりはなかった。
「旭陽の思う平等と、俺の思う平等は違うかもしれないけど、俺は旭陽と子供を守りたいんだよ。わかってほしい」
「······ちょっと、考える。」
「うん。」
悠介の平等と俺の平等の違い。
ちゃんと理解してから物事を進めたい。
「お待たせ致しました」
店員さんが来て、料理をテーブルに置いていく。
今はご飯に集中しようと思って、とにかくカレーを凝視した。
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