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第474話 千紘side

夏休みは実家に帰ることにした。 少しの間偉成と別れることになるから、偉成は拗ねていたけど。 「それでね、偉成ってばなかなか離してくれなかったの。」 「あら。だから帰ってくるのが予定より少し遅かったのね?」 「うん。偉成にいい加減にしろって怒ったの。そしたらやっと離してくれた。」 父さんはまだ仕事に行っている。 俺は母さんに最近のことを話していた。 「千紘、貴方もう2年生でしょ?進路は考えなくていいの?」 「進路?俺は偉成のお嫁に行くよ?」 「······何かしたいことは無いの?」 母さんが真剣な表情で聞いてくる。 したいこと······そんなの考えた事なかったな。 「結婚して子供が欲しい」 「仕事や大学は?」 「多分偉成が許してくれないよ。」 したいことも無いし、それなら偉成が望むようにした方が俺も偉成も納得するはず。 「偉成君は大学に進学するの?それともお家のお仕事を継ぐの?どちらにせよ、偉成君がいない間、貴方はどうするの?」 「······することないね」 まさか、ずっと偉成にくっついている訳にもいかないし。 「この夏休みで、少しでもやりたい事を真剣に考えてみたら?」 「えー······いいよ」 「ちょっとくらい考えてみなさいよ」 母さんが苦笑を零す。 俺は渋々頷いて、夜ご飯まで部屋に籠ることにした。 部屋に戻りベッドに座って、スマートフォンを見ると偉成からメッセージが届いていた。 落ち着いたら電話をしてくれ、って。 母さんに言われたことを少し話してみようと、すぐに電話をかけた。 「千紘!」 「偉成、もう拗ねてない?」 「······拗ねてはないが寂しい」 「あはは、可愛い。」 それから、いつ帰ってくるんだとか、俺の実家には来ないのかとか、色々聞かれたけど全て曖昧に答えた。 「ねえ偉成」 「ん?なんだ?」 「······偉成はさ、進学するの?」 自分からそう聞いておいて、なんだか寂しい気持ちになった。

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