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第480話
「······じゃあ、偉成達が引退した後、新しく俺と同じクラスのアルファの井上君が副会長に声を掛けて、あとの役職はまた別のアルファ達を選ぶの?」
「ああ。そうしようと思う」
千紘からの返事がなくなって、不安に思っていると、少し震える声が鼓膜を揺らした。
「俺ってそんなに必要なかった?」
「違う、そういう事じゃない。千紘が役職についていて、それで発情期が起こったらその分の仕事は他の人がやらないといけなくなる。それなら初めから······」
「なら初めから俺を生徒会に入れなきゃよかったのに。そうすればそんな事考えなくても良かったのにね。今まで発情期で偉成の分の仕事を皆に負担させてたこと謝らないと。偉成も迷惑かけてごめんね。」
千紘との仲が少しずつズレていっている。
もどかしい。もっと上手く千紘に説明できたならこうはならなかったと思う。
「千紘······」
「どの事についても偉成の思うようにすればいい。」
「それじゃあ何も解決しない」
「偉成は俺の気持ちより俺の性別を見てるんでしょ?間違いじゃないと思うよ。世間は皆そうだし。もう好きにしてくれていいから。」
千紘が悲しんでるのがわかる。
いや、悲しいという言葉じゃ表現出来ない複雑な気持ちなんだと思う。
だから、怒るわけでもなく、投げやりになっているんだ。
「千紘」
「俺も、気持ちじゃなくて性別を見ることにするよ。偉成はアルファで、アルファの言うことには皆逆らえないから、偉成に従うよ。」
「······俺は千紘が負担にならないようにと思ったんだ」
「それならどうして、何も言わずに全部決めちゃうんだろうね。」
冷たい言葉を最後に、千紘が電話を切る。
どうすればよかったんだ。
どうしたらちゃんと千紘と理解し合えるんだ。
千紘が不安に思っている時にするような話ではなかったか。
「······はぁ」
千紘の心が落ち着くまでに、どれほどの時間がかかるんだろう。
全てが決まってしまう前に、ちゃんと向き合って話がしたいのに。
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