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第517話
ちょっと疲れてしまった。
初めて着るような高級で綺麗なスーツに、初めてされたヘアセット。
最後の確認に鏡を見せられると感動したけれど、どこか自分じゃない気がして落ち着かない。
「変じゃないですかね」
「そんなことないです。とてもお似合いです」
スタッフさんにそう言わるけど、違和感が拭えない。
「千紘」
そんな時、別行動をしていた偉成がやって来て、振り返るとそこには見た事も無い偉成がいた。
「うわぁ」
「ん?」
「格好いい······うわ、すごい······」
偉成に駆け寄って頬に触る。
今ここに俺達以外に誰もいなかったらキスしてたのに。
「千紘も可愛いぞ。いや、今日は格好いいな。」
腰に腕が回る。
あ、と思った頃にはもう遅く、キスをされた。
慌てて顔を離して辺りを見回すと、スタッフさん達がにこやかに笑っていた。
「さ、最悪っ」
「そんなこと言うな。」
体が離れて、俯いている間に偉成がお会計を済ませていた。
手を取られ、指を絡め合う。
「ありがとうございました」というスタッフさんの声を背中に受けて車に乗った。
「千紘」
「なに──······んっ」
またキスされて、なんだか今度は恥ずかしくなって俯いた。
「もしかするとパーティーで千紘が誘惑されてしまうかもしれない。こんなに可愛いから仕方がないとは思うが······。何かあれば絶対に知らせてくれ。俺がもし傍にいなかったら誉にでも東條にでも。わかったか?」
「わかった」
「俺は挨拶をしないといけないんだ。千紘はきっと疲れるだろうから、料理を食べて待っていてくれればいい。」
その言葉に頷いて、偉成にもたれ掛かる。
「着いたら起こして」
「わかった」
慣れないことがあってかもう既に帰りたくなってきた。
その気持ちを無視するために、目を閉じて会場に着くまでの時間を過ごした。
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