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第518話 偉成side

会場まであと少し。 千紘を起こすと、目元を擦って辺りを見回した。 「わ······こんな所でするの······?」 「ああ。」 ホテルのホールを借りてのパーティーだ。 高い建物に千紘は口角をヒクヒクさせている。 玄関で車が止まり、ボーイがドアを開けた。 車から降りて、千紘に手を差し出すと恐る恐るというように手を重ね、ゆっくり降りてきた。 「怖がらなくていい。新しい事を楽しもう」 「······でも」 「傍にいるから」 顬にキスをすると、俺の胸に顔を埋める。 「大丈夫」 「ん······頑張る」 顔を上げた千紘の唇に唇を重ねる。 少しだけ千紘の顔色が明るくなった。 千紘の腰に手を回し、会場に入る。 俺にとっても久しぶりのパーティーだ。いい思い出はそんなに無いが、千紘がいるから今回は楽しみでもある。 「千紘、あそこに東條がいるぞ。」 「え······あ!本当だ!」 「今は食事をしてるから、少し東條と一緒にいるか?俺は挨拶に回ってくる。先に終わらせて後は千紘と過ごしたい。」 「わかった」 東條の所まで千紘を連れて行く。東條は千紘を見て目を見開いていた。そうだろう。俺の番はとても可愛いだろう。 着慣れないスーツとした事の無いヘアセットに顔を歪めてはいたけれど、千紘に似合っているからな。 「少しの間千紘を頼む」 「ん」 事前に東條と誉には千紘の事と、何かあれば助けてやってほしいことを伝えていた。 千紘から離れて会場を回る。 「赤目さん!」 声を掛けられて振り返る。 そこにはにこやかな笑顔を浮かべる男性がいた。知らない人だ。 「俺は宮間(みやま) (じゅん)です。」 「······ああ、あの宮間さんですか。初めまして。赤目 偉成です。」 宮間は関西の方で有名な企業だったと思う。 考えていると、宮間さんの首元でシャツに隠れてちらっと首輪が見えた。 どうやらこの人はオメガらしい。 「赤目さん、よかったらお話ししませんか?」 「え、ああ、いいですよ。もちろん。」 初対面の相手から誘われた時間を拒否するなんて感じが悪い。そう思って誘導されるまま会場の隅に移動した。

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