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第519話

会場の隅で、料理をいただきながら宮間さんと話をする。 「宮間さんはお幾つですか。」 「俺は16です。高校1年生。」 「へえ。白樺ではないんですね」 「勉強が嫌いで、受験時に頑張れなかったんです。」 口元だけ笑った宮間さん。 確かに、金持ちのオメガがわざわざ白樺に来る必要は無い。 知り合いにはアルファがいるだろうし、こういったパーティーに参加しているだけで十分か。 「赤目さんは白樺ですよね。どうして?」 「元々は両親に勧められて。まあでも生活していて便利な施設だなと思いますし、入学してからはそんなに勉強に力を入れなくてもいいし······。」 「あと、オメガがいるし?」 突然そう言ってきた宮間さんに若干違和感を感じたが、その言葉はあながち間違いではないので1つ頷く。 「赤目さんクラスだと番に困らないんだろうな」 「いえ、そんな······」 「さっき一緒にいた人、あの人は貴方の番でしょう?」 千紘のことを言っているのだとわかり、こくっと頷けば宮間さんの口元が三日月に歪む。 「俺も勉強して白樺に行けばよかったかな?」 「······宮間さんもオメガで······」 「はい。番なし。だから首輪してます。······ああっと、俺ばっかりと話してちゃダメですよね。引き止めてごめんなさい。パーティー楽しみましょうね」 宮間さんが慌ただしく去って行く。 変なのに絡まれたな······そう思いながら、空いた皿をウェイターに渡し、途中だった挨拶を再開した。 会場内をゆったり歩いていると、肩を掴まれる。顔だけ振り返ると誉がいた。 「誉か。驚いた」 「ならそれ相応の反応をしろよ」 「したぞ」 「······なんでもいいが、松舞が絡まれてるぞ。東條が庇ってはいるものの、オメガの雰囲気がアルファを誘惑してるのかもな。」 誉が指を指す。その方向を見ると大きな男から隠れるように東條の後ろにいる千紘が見えて、慌てて千紘に駆け寄った。 千紘の手を取ると驚いていて、東條は「やっと来たか」と言って千紘の背中を押した。その力に抗うことなく俺の胸に収まった千紘の顔色は少し悪い。 「少し外に出て休もうか。」 「う、うん······。」 一緒に外に出て、ベンチに腰を掛ける。 隣に座った千紘が、俺の肩に顔を寄せてぼんやりとしだした。 「何か言われたか」 「オメガだってことを言われただけ。誰の番なのとか、あ、相性はとか······」 「下衆な奴らだ」 伏せがちな瞼に唇で触れる。 そのまま額に、頬に、鼻先に。 最後に唇にキスをしながら、耳を両手で覆う。 何も聞かなくていい。余計な言葉に惑わされなくていい。 甘えるように俺の手に触れる千紘が愛しくて、唇が離れても数秒見つめ合った。

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