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第520話

「戻れそうか?無理ならホテルで部屋を借りてくる。そこで休んでいればいい」 「え、そ、そんなのいい!」 「そうか?無理しなくていいんだぞ」 千紘の匂いは不安の色が濃くて、どうにか安心させてやりたいと思うのに。 「俺は大丈夫。偉成も、東條先輩も高梨先輩もいるし!」 「わかった。でも少しでも辛くなったらすぐに教えてくれ。」 千紘の手を取って立ち上がる。 会場に戻って、千紘の腰に手を回し体を密着させる。 もう挨拶はいい。今は千紘を優先していたい。 「東條先輩はずっとあそこで食事してるけど、偉成みたいに挨拶したりしないの?」 「東條には兄がいるんだ。そっちがやってると思うぞ」 「お兄さんが?どの人?見てみたい!」 千紘が今にもピョンピョンと跳ねそうなほど明るくなる。 会場を見渡して、東條の兄を見つけて指を指した。 「あれだ。」 「あー······どれ?」 「行った方が早いな。」 千紘と一緒に傍により「すみません」と声を掛ける。 「ん?ああ、赤目君じゃないか。久しぶりだな」 「お久しぶりです、彰人(あきひと)さん。」 「そちらは?」 千紘に視線を移した彰人さん。 千紘は慌てたように視線をキョロキョロと動かす。 「俺の番の松舞千紘です。生徒会をしているので彰仁とは知り合いで。」 「へえ。初めまして。千紘君。彰仁と仲良くしてくれてありがとう」 「あ、い、いえ、俺の方こそ、いつも東條先輩に仲良くしてもらっていてっ!」 顔を赤くしてるのが可愛い。彰人さんも同じことを思ったのか、優しい表情で千紘を見ている。 「彰仁はまた食事ばかりしてるんだろう。あいつにもいい加減仕事を覚えて欲しいんだけどな。」 「貴方をとても頼りにしているんでしょう」 彰人さんの愚痴にそう返すと、困ったように笑う。 「ぁ、で、でも東條先輩はいつも生徒会でお仕事すごいしてくれてました!東條先輩もすごく頼りになって、いい人です!」 千紘が突然そう言い出して、彰人さんも俺も笑ってしまった。 千紘は悪い事を言ったのかと不安そうにしているけど、大丈夫。 「そうかそうか。彰仁にも君みたいに優しい子が見つかればいいな。」 「可愛いでしょ、うちの千紘は。」 「ああ、とても可愛い。羨ましいよ」 軽く会話をして、別れる。 千紘は俺の手を取って深呼吸をしていた。どうやら緊張したらしい。 「東條先輩のお兄さんは東條先輩に似てて優しいね」 「そうだな」 その足で東條に近付く。 「彰人さんと話した」 「見てた。」 そのうち誉もやって来て、千紘は漸く肩の力を抜いた。

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