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第521話
「千紘、それ何を飲んでるんだ?」
「わかんない。渡されたから飲んでみたら美味しくて」
「······顔が赤いが。」
「うん、暑くなってきた」
パーティーもそろそろお開きになる頃、千紘がシャンパングラスを片手に真っ赤な顔をして俺の腕に絡みついた。
「グラス貸して」
「んーん、これ飲む······」
「飲まない。······おい誉、それシャンパンだよな?」
グラスを奪おうとしたのにヒョイっと躱される。誉が溜息を吐きながら、千紘の手を抑えてグラスを奪った。
「ああ、間違いなくな」
俺に抱きついてきた千紘が、そのまま体の力を抜く。慌てて背中に手を回して抱き上げ顔を覗きこんだ。
「寝てる」
「帰るか、ホテルの部屋を取るかどっちかだな。どうする?帰るなら車を回すように言ってきてやるし、部屋を取るなら手続きしてくるが。」
東條が千紘を見て呆れたように言う。
俺は真っ赤な千紘も可愛くて呆れるどころか楽しくて口角が上がる。
「車で寝てる時に気分が悪くなったら可哀想だし、ホテルで休むよ。どうせ明日は休みだしな」
「わかった。手続き済ませてくる」
「ありがとう。」
そのまま廊下に移動して椅子に腰掛ける。
首に腕を回してきた千紘はまだ目を閉じていて、優しく髪を梳くと気持ちよさそうに口元を緩ませた。
「──あれ、赤目さん。」
声を掛けられて顔を上げる。
そこにはさっき話をした宮間さんがいた。
眠っている千紘を見て真顔になったかと思うと、すぐにふんわりと笑う。
「番の方ですね。体調崩しちゃったんですか?」
「間違えて酒を飲んでしまったみたいで。」
「それは災難ですね」
話をしていると、千紘がもぞっと動いて薄く目を開けた。
「ん······偉成ぇ」
「大丈夫か?」
「······ムカムカする」
「トイレに行こうか」
千紘を抱っこしたまま立ち上がり、宮間さんに軽く頭を下げる。
「すみません、失礼します。」
「あ、はい。お大事に」
トイレに移動して千紘をおろす。
気持ち悪そうに口を手で覆った千紘の背中を撫でる。
「出るなら出した方が楽だと思う」
「ぅ······」
「ほら、大丈夫だから」
けれど一向に出せないらしくて、「気持ち悪い」を繰り返して、ポロポロと涙を流しだした。
「千紘、ちょっとだけ我慢してくれ」
「ん、なに······っう」
千紘の口に指を突っ込む。
喉奥を刺激すると、千紘は慌ててトイレの便器に嘔吐した。
「うぇ······しんど······」
「よしよし。口濯いで部屋に行こうな」
トイレから出て嗽をさせる。
ぐったりする千紘を抱き寄せて、元いた場所に戻った。
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