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第534話

「今は学校の空き教室。」 「やっぱりか······」 「何だ」 やっぱりって何だ。 気になって聞くと溜息を吐かれる。 「さっき兄貴がオメガと空き教室に入ったのを寒沢が見てた。その後その空き教室付近でオメガのフェロモンが漏れてるって今連絡が来て、もしかしてとは思ったが······」 「ああ。話をしていたら発情してしまったんだ。緊急抑制剤を打った。暫くすれば治まると思うが······あ、匡に頼みがある。」 「······何」 「俺の体操着がロッカーにある。持ってきてくれないか。ズボンだけでいい」 宮間を見て、服が濡れたまま寮に戻るのは嫌だろうと思って匡にお願いすると「わかった」と半ば呆れながら了承してくれた。 宮間の呼吸が落ち着いてきて、そのうち力が抜けて目を閉じだした。 「俺ので悪いが、もうすぐ着替えが届く。それまでは寝るのは我慢してくれ。」 「······体、だるい······」 「ああ。寮までは運ぶから、だから着替えるまでは起きててくれ。」 話しているうちに空き教室がノックされ「兄貴」と俺を呼ぶ匡の声が聞こえた。 教室の前の喧騒は止み、鍵を開けるとドアが開き眉間に皺を寄せた匡が俺の胸にドンッと体操着を押し付けた。 「オメガは?」 「治まったのはいいが、抑制剤の副作用か、発情期だからか、体が怠いらしい。抑制剤を打った時に服が汚れてしまってな」 部屋に入るかドアと鍵を閉めるか、そう言って宮間に近づくと、匡はドアと鍵を閉めて俺の後ろに立つ。 「宮間、服こっちに着替えよう。そのままじゃ帰れないだろ」 「ん······待って、動けなくて······」 「お前がいいなら勝手に俺が着替えさせる。下着を脱がされるのは嫌だろうから、とりあえずスラックスだけ。いいか?」 「······ん」 服を脱がせ、代わりに体操着を履かせて、汚れたスラックスを持っていた袋に入れた。 「宮間、抱き上げるぞ」 「は、い」 宮間を横抱きにして持ち上げる。 匡は荷物を持ってついてきてくれた。 「オメガの寮に入る許可を出してくれ」 「ここに来る前に出した。ちゃんと許可書も持ってる。」 「ありがとう」 オメガの寮まで急いで、許可書を管理人に見せて中に入る。宮間の部屋に行きそっとベッドに下ろした。 「偉成、君······」 「発情期の届けは俺が出しておく。あとは······何かしてほしいことはあるか?」 「ん······抑制剤と、水を······ここに置いといてほしい······」 その言葉に頷いて、水と薬を指定された場所に置いておいた。

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