535 / 876

第535話

部屋から出て一息吐く。 匡も同じようにホッと息を吐いて、ゆっくりした足取りで寮から出た。 「ああ、そうだった······届けを出してくる。」 思い出して学校に向かおうとすると手首を掴まれる。 「それは俺がやっとく。俺達は番がいるから分からねえけど、多分番の居ないアルファからしたら今のあんたは毒だ。あれだけ発情したオメガと一緒にいたんだからな。」 「······それもそうか。すまない」 匡に預けっぱなしだったバッグを受け取って、今度こそ寮に帰る。 「帰ったらすぐに風呂に入って、制服は洗濯しろよ。今日は千紘はいないんだろ?」 「ああ。千紘から聞いたのか」 「全部は聞いてない。ただ元気がなかったから話しかけたら、今日は高良先輩と楠本さんの家に泊まるって。何かあったんだろ。」 どうせ今日だけの我慢。 明日帰ってきた千紘にちゃんと謝れば終わる話。 「ああ。ちょっと······喧嘩ではないんだが」 「さっきのオメガが関係してるんだな?」 「そうだ。」 それ以上話す気にはなれなくて、とりあえず寮に帰ってシャワーを浴びた。 風呂場から出る頃には、夕方で空が暗くなっていた。 いつもなら千紘が喜んでくれるから料理を作ろうと思うのに、今日は思えない。 1人の食事を前は当たり前のようにしていたのに、今はどうしても料理をしようとはならなかった。 「······カップラーメン」 物置に一応の為と置いてあるそれを手に取り、お湯を沸かして作った。これを食べるのも久しぶりだ。 怒らせたのは自分だ。 わかってるけど、どうしても千紘に会いたい。 そういえば、千紘と出会ってから自分は酷く女々しくなったなと思う。 思わず苦笑を零して、出来たてのラーメンを啜った。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!