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第536話 千紘side
「じゃーね、またおいでよ。」
「はい!お邪魔しました!」
旭陽先輩とお婆さんお爺さんに挨拶して、高良先輩と学校に向かう。
気持ちは昨日よりスッキリしてる。
電車に揺られて、いつの間にか寝ていると学校の最寄り駅で先輩が起こしてくれた。
「朝早いからちょっと辛いよね。平日に連れて行っちゃってごめんね。」
「え!いえいえ!すごく楽しかったし!」
「そう?それならよかったけど······会長とちゃんと話できたらいいね。」
学校までの道を歩いて、校舎が見えてくると「よし!」と言って気合を入れた。
「じゃーね!」
「はい!ありがとうございました!」
校舎に入り靴を履き替えて教室に向かう。
高良先輩と別れてから気が付いたけど、なんか······やけに見られてる気がする。
立ち止まってバッと振り返ると、俺に向いていた視線が一気に逸らされた。
いや、何だこれ。
「······」
気味が悪くて急いで教室に行こうとしたところで、声が聞こえてきた。
「なあなあ昨日の噂聞いた?前の会長の赤目さんが1年のオメガといたらしいんだけど、そいつが発情期になっちまって赤目さんが付き合ってやったって。」
体が固まって動かなくなる。
これ以上聞いちゃダメだと思うのに、足が進まない。
「え、付き合うって何だ?······もしかして抱いてやったって事?でもあの人は番がいるだろ」
「だーかーら、その番は振られるかもって噂出てんだって。」
偉成から直接聞いた話じゃない。
だからそんな噂信じなくていい。
なのに、こんなにも苦しい。
「千紘、おはよう。」
肩にポンっと手が置かれる。
振り返れば匡と優生君がいて、俺の顔を見た途端に目を見開いた。
「お前、どうした······」
「体調悪いの?」
2人が俺を心配してくれてる中、また声が聞こえてくる。
「今朝もオメガの寮に向かう赤目さん見たしな」
「2年の松舞って人だったよな。赤目さんの番って。あの人番解消されて死ぬんじゃね?」
聞きたくなくて耳を両手で塞いだ。
匡も優生君も聞こえていたはずだ。その証拠に優生君は焦った表情をして俺を抱きしめる。
「千紘君······!」
体から力が抜けて床に座り込んだ。
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