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第537話
「千紘、とにかく立って。無理なら運ぶ。」
「······お、俺、番解消され、る······?」
体から熱が無くなる。
指先が冷たくて、体が大きく震え出した。
「大丈夫、兄貴と話してないだろ。兄貴の言葉だけを信じればいい。」
匡に抱き上げられ、匡と優生君の寮の部屋に運ばれる。
ソファーに座ると、一気に恐怖が襲ってきた。
偉成がいなくなるかもしれない。
俺の傍から消えてしまうかもしれない。
「っは、はぁっ······っ、ひっ」
「千紘君っ!」
呼吸が上手くできない。
胸を抑えて倒れ込むと、優生君に背中を撫でられる。
「ゆっくり呼吸しよう。僕と一緒に。ほら、吸ってー······吐いてー······」
荒い呼吸を繰り返し、意識が朦朧とする。
そのうち落ち着いてはきたけれど、体が怠くて動かせない。
「優生、水飲ませてやって」
「ぁ、うん」
体を起こされて水を飲ませてくれた。
ああ、もうだめだ。
番を失うかもしれないと自覚した途端に、体のコントロールが全く効かなくなった。
「兄貴呼んでくる。ちゃんと話させた方がいい。」
「うん······。でも匡君、千紘君の体調が······。ほら、その······解消されるかもって分かった途端にオメガの体調は一気に悪くなっちゃう場合があるってテレビで言ってたよ。千紘君の体は今その状態だと思う······」
優生君の暖かい手が、俺の両手を包む。
「千紘君の体がすごく冷たいんだ。」
「病院に連れてった方がいいのか?」
「うん」
ふわふわの毛布に体を包まれる。そのまままた浮遊感に襲われ、それが気持ち悪くて目を閉じる。
「千紘君、大丈夫だからね。すぐに病院に行って······」
優生君の言葉が途切れる。
それと同時に、大好きな人の匂いがした。
涙が溢れて止まらなくなって、目を開けると偉成が驚いてこっちを見ている。
「ち、ひろ?」
偉成の震える声。
今すぐ走り出して抱き着きたい。けれど体が上手く機能しない。
「兄貴、今から千紘を病院に連れて行く。学校で千紘が番を解消されるかもしれないって噂を聞いて、それから体調が悪くなった。」
「え······解消って、どういうことだ」
偉成が傍に来て、俺の濡れた頬に触れた。
「説明は後でするから、とにかくついてきてください!」
偉成の手を取った優生君。
運ばれる振動がやっぱり気持ち悪くて、偉成の姿を最後に目に映して、意識を失った。
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