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第538話 匡side
意識を失った千紘を慌てて病院まで運ぶ。
病院に着くとすぐに処置を施され、今はベッドで眠る千紘の傍に椅子を並べ、そこに座っていた。
「昨日兄貴が宮間といた所を他の生徒も見てたらしい。教室から宮間を背負って出てきたところも、寮まで送ったのも、全部見られてたんだろうな。」
兄貴に向かいそう言うと力なく頷く。
俺の説明よりも目の前にいる千紘がいなくなるのではないかと不安なんだろう。
「今朝も宮間の所に行ったんだって?」
「······昨日体操着を貸しただろ。そのポケットに配られたプリントを入れっぱなしだったって思い出したんだ。それは今日使う予定だったから取りに行ってた。」
「······それで、噂の内容が酷くなったんだな。千紘は番を解消されるかもって聞いて不安になったんだと思う。」
兄貴が千紘の手を取ってそのまま額にくっつける。その姿が胸を締付けた。
さっき千紘を診てくれた医者千紘がこうなった経緯を話すと、オメガは番を解消されるかもしれないと思うと、一気に生命力が低下すると聞かされた。その場には兄貴もいて、兄貴の顔色が悪くなっていた。
「宮間と兄貴の間に何も無いのは俺も知ってる。兄貴が千紘と話すなら、俺が証人になる。だから早く、千紘を助けてやってくれ。」
「······わかってる」
昨日はこんな事になるなんて思ってもいなかった。
もっと周りを気にかけていれば······。そんな後悔が押し寄せてくる。
「──千紘っ!」
突然部屋のドアが開き、人が飛び込んできた。
振り返ってみれば見たことの無い人物で、でも兄貴が慌てて立ち上がったことから、千紘のご両親だということがわかった。ご両親は眠っている千紘を見て呆然としている。
兄貴は何を言うこともなく、それどころかご両親をまともに見れないらしく、俯いたまま頭を下げた。
それを見て慌てて口を開く。
「初めまして、赤目偉成の弟で千紘君とは仲良くしてもらってます。赤目匡です。」
「僕も、千紘君に仲良くしてもらってます、小鹿優生です。」
自己紹介をすると、それを千紘のお母さんは頷き「千紘の両親です。」と言って薄く笑った。
「ごめんなさい。私達はまだ千紘の容態について聞いてなくて······。お医者さんの所に行ってきてもいいかしら。その間、千紘をお願いしても······」
「もちろんです。」
返事をすると、千紘の父親が母親に支えられるようにして一緒に病室を出ていく。
それを確認してから、兄貴の肩をポンっと叩いた。
「もう少しちゃんとしろ」
きっとわかってるだろうけど、千紘を失うかもしれないという不安で何も考えられないんだと思う。
ほんの少しだけ同情してると、兄貴の様子がおかしくなった。
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