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第539話

「千紘······千紘、千紘早く起きて、早く······」 兄貴の声が震えている。 手が伸びて、千紘の頬に触れると、静かに涙を流し出した。 「おい、兄貴······」 「千紘、俺が悪かった······ちゃんと説明していたらよかった、ごめん、ごめん······っ」 こんな兄貴の姿は初めて見た。 番を失うかもと恐れるアルファはこんな事になるのか。 「落ち着け。大丈夫、千紘は起きるから。居なくならないから。」 「······早く、起きてくれ、早く」 それに兄貴と千紘は運命の番だ。 きっと普通の番関係であるオメガとアルファとはまた違うんだろう。 「兄貴、1回千紘から離れよう。落ち着いて、それからまた会いに来たらいいから。」 「嫌だ」 「でも······」 兄貴の涙がシーツにかわいた音を立てて落ちた。 「千紘に会えなくなるのは嫌だ」 小さくて、けれど強い言葉が俺にとってはどうしようもないくらい悲しい。 兄貴が何度も千紘の名前を呼び続ける。 そのうち、千紘の瞼がピクっと動いた気がした。 兄貴も何かを感じたのか、俯いていた顔を上げて千紘の顔をじっと見る。 「起きて」 兄貴がもう1度そう言うと、千紘の瞼が震えて持ち上がる。 ぼんやりと天井を見たかと思うと、視線が動いて兄貴の方を見る。 「ぁ······千紘······」 千紘の頬に触れた兄貴の手が、千紘が零す涙でだんだんと濡れていく。 「俺は番を解消する気なんかない。俺には千紘しかいないんだ。」 兄貴がそう言うと、病室に流れる空気が柔らかくなった気がする。 千紘が起きたことを、優生が急いで看護師に伝えに行った。

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