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第540話 千紘side

何度も何度も名前を呼ばれた気がする。 ゆっくりと目を開けると白い天井が見えて、ここどこだっけ······と思っているうちに、視界の隅で泣いている偉成が見えた。 「ぁ······千紘······」 偉成の暖かくて大きな手が頬に触れる。 勝手に溢れる涙がその手を濡らしていく。 「千紘······俺は番を解消する気なんかない。俺には千紘しかいないんだ。」 その言葉を聞いてやっぱりあの噂は嘘だったんだと確信する。 偉成を信じてなかったわけじゃない。 ただ、もしそうなったらと考えると怖くて仕方なかったんだ。 偉成の顔が近づいて、優しく触れるだけのキスをされる。 ああ、気持ちいい。 もっとしてほしい。 そう思っているとだんだんと体が熱くなってきて、偉成を見ると、すごく俺を欲しがってそうな顔をしていた。 「失礼します」 看護師さんが入ってきて、ここが病院だということを思い出す。 「発情期になってしまってるので、抑制剤を打ちますね。」 「発情期?」 匡もそばにいたみたいで、看護師さんに話しかけてる。 「はい。こういった番との間に大きな問題が起こったあと、オメガはアルファを離さないように発情期になる事が多いんです。とはいっても3ヶ月に1度の発情期とは違い、オメガがもう大丈夫だと安心をしたら治まります。」 偉成に触りたい。 手を伸ばすと包むようにして手を取られたけど、それだけじゃ足りない。 「いっせい······」 「っ、ああ、大丈夫、ずっとここにいるから。」 俺のフェロモンに影響されて、偉成が少し苦しそう。 「番の方ですね。抑制剤はお持ちですか?」 「あります」 偉成は「ごめん」と言って俺から手を離すと、すぐに抑制剤を飲んで、また手を繋いでくれる。 「偉成、抱きしめて、ほしい······」 「ああ」 寝転ぶ俺を覆うように抱きしめてくれる。近くで嗅ぐ偉成の匂いに体が反応して、このまま抱いてほしくなる。 「ぁ、うぁ······き、キスも」 優しく髪を撫でられて、キスをされるとすごく甘くて、頭がクラクラした。 「はぁ······」 唇が離れる。 名残惜しくて目を細めると、優しく微笑まれた。 「千紘のご両親が来てる。今は医者に話を聞きに行ってるよ。もうすぐ戻ってくると思う。」 「······いっぱい迷惑かけちゃった」 「それは千紘のせいじゃない。俺のせいだから、気にしないで。」 そう話していると、病室のドアが開いて、母さんと父さんが入ってきた。

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