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第541話

「千紘っ!」 父さんと目が合うと、すぐ傍に来てくれた。 偉成と出会うまで、父さんが俺をこんなに心配したくれたことなんてなかったのに。 「もう大丈夫なのか?担当の先生から話を聞いたが、体は辛くないか?」 「ぁ、と、父さん······大丈夫だから、その、手が痛い······」 父さんに手を握られたけれど、痛くて顔が歪む。 父さんはすぐに手を離して「すまん」と一言呟いた。 「もう大丈夫、多分すぐに帰れるよ」 「そうか」 父さんはすぐに偉成に顔を向けて「話がある」と言って2人で部屋を出て行ってしまった。 「千紘、本当にもう大丈夫なの?お医者様から聞いたけど······偉成君と何かがあったんでしょう?」 「······大丈夫」 「千紘をあれだけ思ってくれてるんだもの。何か勘違いしちゃったのよ、きっと。千紘は偉成君のことを1番に信じていればいいの。」 優しい手が頭を撫でる。 傍に匡も優生君もいるのに。少し恥ずかしい。 「父さん、偉成と何話してるの?」 「偉成君の気持ちを確認してるだけよ。多分ね。」 ゆっくりと体を起こす。 母さんが背中を支えてくれて、ベッドに座りゆっくり息を吐いた。 「今日帰れる?」 「帰るのは明日。今日1日は様子を見ないといけないみたい。」 「······帰りたい」 「今日は我慢よ」 母さんは困ったように笑う。 匡と優生君に迷惑をかけたことを謝り、そのまま話をしていると、父さんと偉成が戻ってきた。 「千紘、起きてて大丈夫なのか?」 偉成がそう言って、俺の背中に手を添える。 「大丈夫だよ」 そう言うと、偉成は安心したように表情を弛めた。 「千紘、父さんと母さんは帰る。明日には退院らしいから、偉成君にあとは任せる。元気になったらまた2人で家に来なさい」 父さんはそう言うと、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、母さんと帰ってしまう。 せっかく来てくれたのに、全然話ができなかったな。少し寂しく思いながら、偉成の手をギュッと握った。

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