551 / 876

第551話

タクシーが着いた先は墓地。 もう暗くなったそこ。明るくないこの場所は少し不気味にすら感じる。 「誉」 暗がりを探し回ると、漸く道に座りこんで膝に額をつけて隠れている誉を見つけた。 名前を呼んで肩に触れると、大袈裟なくらい肩を跳ねさせ、顔を上げる。 「お前を探す時にここら辺を見て回った。誰もいなかったから安心しろ。」 「······悪い」 「寒かっただろ。何か温かい飲み物買ってくる。何が言い?」 「ココア」 持ってきていたマフラーを誉の首にかけて、一緒にベンチまで移動し、飲み物を買って戻る。 誉は意外と甘党で、指定されたココアを渡せば、それを両手で握って温かさに表情を緩ませる。 「お前の家に帰るか。」 「······松舞は」 「千紘には伝えてある。」 俺が立っても座ったまま動こうとしない誉の手を取り、ぐいっと引っ張ると抵抗することなく立ち上がる。 「一緒にいるから、我慢しなくていい。怒りたいならそうすればいいし、泣きたいなら泣け。お前ばかりが背負わなくていい。」 手を掴んだまま、来た道を帰る。 ゆっくりと俺の後ろをついて歩く誉は、そのうちズズっと鼻を啜り出した。 とぼとぼと歩き、またタクシーに乗って誉の家まで帰る。 誉の家に帰ると、使用人達が迎え入れてくれた。両親はまだ仕事で帰ってきていないらしい。 俯いて目元と鼻を赤くしてる誉を見た使用人達は何も言わず、誉の部屋に通してくれた。 「誉、風呂に入って温まってこい。」 「······これ、冷たくなっちまった。」 手に握ったままのココア。 それを受け取ってテーブルに置く。 「これは温め直しておくよ。」 「······マフラー汚れたかも」 「いいよ」 誉の体が冷えきっている。早く温まらないと風邪を引いてしまう。 クローゼットから適当に着替えを取り出して、それを誉に押し付けた。 「話は後でいくらでも聞く。」 「ありがとう」 覇気のない弱々しい声。 フラフラと風呂に入りに行った誉を見てから、ココアを持って使用人に声を掛け、温めてもらうように頼んだ。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!