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第552話 誉side
温かいお湯を浴びながら、さっきの光景を思い出す。
あの女があいつの墓に向かって手を合わせていた。
それを見た途端に怒りが湧いてきて、どの面を下げてその場に居るんだと怒鳴りたくなった。
──······あれは5年前の冬
俺には片思いをしている相手がいた。
その子の名前は真緒 。
笑顔が良く似合う可愛い子だった。
『誉君!』
いつも俺の後ろをついてきて、よく一緒に遊んだ。
今でもあの可愛い姿を覚えている。
***
中学1年生の夏
それは性別の検査でアルファということが分かってすぐの頃。
検査をする前から自分はアルファだと思っていたし、それがわかったからといって喜ぶわけでも驚くわけでもない。
性別がわかった所で何の変化もない日常を過ごすことになると思っていた。
けれどそれは違った。
俺のクラスでいじめが始まったのだ。
いじめの標的は、同じ性別の検査でオメガだと診断されたクラスメイトの真緒だった。
他の子よりも小さな体に、どこか弱々しい雰囲気があって、細い首には首輪が着いている。
別にオメガだからと言って非難する対象になるわけじゃない。
オメガもベータもアルファも同じ人間。ただ性別が違うだけで、何もおかしいことは無い。
なのにどうしてオメガを下に見ていじめるのかがわからない。
それに、性別がわかるまで皆真緒と友達だったくせに。
そう思った俺は、罵声を浴びせられていた真緒の前に立ち、「やめろ」と言った。
この教室でアルファなのは俺だけで、誰もが俺の言葉に従った。
泣いている真緒の手を取り、教室の外に連れ出す。
「真緒、大丈夫か?」
「っ、ほまれくん、ありがとうっ」
泣き止まない真緒にどうしたらいいのかも分からず、俺は一緒にいてやることしかできなかった。
けれどその日から真緒と俺は仲良くなった。
というよりも、真緒が俺について来るようになった。
「俺とばっかりいたって楽しくないだろ。」
「ううん!誉君はオメガだってわかってても優しくしてくれる。だから前と何も変わらない誉君と話するのは楽しいし、嬉しいんだよ。」
そう言って微笑む真緒に、俺はいつの間にか惹かれていった。
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