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第556話
心臓が嫌な音を立てる。
嫌われたらどうしよう。不安に襲われていると立ち上がった真緒が首を左右に振って近付いてくる。
「ち、がうの······嫌なんじゃなくて······」
「怖かった、よな」
「······怖かった。でも、誉君に触られるのは嫌じゃなくて、その······まだ、心の準備ができてなくてっ」
真っ赤な顔でそう言うから、今まで特に意識していなかったそういう行為がいきなり現実的に思えて、俺まで顔が熱くなる。
「キス、とか······そういう事は、全部誉君とだけがいいよ。」
ああ、やばい。抱き締めたい。
腕を広げるとおずおずとそこに入ってきた真緒が愛しい。
「俺も、全部真緒とがいい。」
「······でも初めてだから、初めての時はご迷惑をおかけするかもしれません······。」
「何で急に敬語になるの。俺も初めてだから2人でゆっくり進んでいこう。」
真緒は頷いて、顔を上げると、今度は真緒の方から触れるだけのキスをされた。
***
秋になった。
過ごしやすい気温で、出かけるにもピッタリの日々が続いている。
「こんにちは、真緒いますか。」
真緒の家に行くと真緒のお姉さんが出て来た。
初めて見る真緒の家族。
「あの子は今習い事に行ってて······もう少しで帰ってくると思うけど······。あ、良かったら待ってますか?」
「お願いします」
お姉さんに案内され、リビングに通される。
「真緒の恋人なんだよね?ていうことはアルファ?」
「あー······はい。一応」
「名前は······誉君だっけ?私は真子 。ちなみに高校1年生です。」
名前と歳を覚えて頷く。
その後も話をしていると珍しいことに、真子さんもオメガだということがわかった。
「真緒はいいな、こんな素敵なアルファがいて。」
その言葉になんとも言えず、気まずく思っていると「ただいまー!」と真緒の声が聞こえた。
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