557 / 876

第557話

「あれっ!?誉君来てる!」 「おかえり」 リビングに来た真緒が俺を見て笑顔になる。 走ってきたと思えば飛びつかれて、その体を支えた。 「出掛ける約束してただろ。だから迎えに来た」 「待たせちゃってごめんね、ありがとう。」 真緒は荷物を置いて準備をすぐに済ませ、一緒に家を出た。 「真緒はお姉さんに似てるな」 「うん、よく言われる!」 手を繋いで道を歩く。 それだけでも俺は満たされていて、幸せを感じている。 「でもね、最近お姉ちゃんと喧嘩することが多いんだよね。お姉ちゃんには恋人が居ないから嫉妬してるみたい。」 困った表情をした真緒に、俺はやっぱり何も言えない。 「最近不良みたいな人とつるんでたりするし、ちょっと怖いからやめてほしいんだけどね。」 「······そう」 そんな真緒の不安は的中した。 それは秋の終わり、寒さが厳しくなってきた日のことだった。 *** 俺達はまだ先に進めないでいる。 これからずっと一緒にいるんだから、焦ることは無い。 俺も、きっと真緒もそう思って日々を過ごしていた。 「今日お姉ちゃんの友達が家に来るんだって。」 「そうか。」 「もっと長い間誉君と遊びたかったなぁ」 ある日の休日。 午前中から映画を観に行ったその帰り。 午後には家族との用事があるから帰らないといけなくて、真緒は拗ねたように唇を尖らせる。 「ごめんな。また明日遊ぼう」 「······本当?」 「うん。迎えに行くよ」 「やった!」 真緒を家まで送り、別れ際にキスをして、俺は家に帰った。 吐いた息が白い。 明日も寒いのかな。 それならどこか温かい室内でデートするのがいいかもしれない。 明日の計画を立てながら帰路を歩く俺には、真緒の叫び声も何も届かなかった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!