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第557話
「あれっ!?誉君来てる!」
「おかえり」
リビングに来た真緒が俺を見て笑顔になる。
走ってきたと思えば飛びつかれて、その体を支えた。
「出掛ける約束してただろ。だから迎えに来た」
「待たせちゃってごめんね、ありがとう。」
真緒は荷物を置いて準備をすぐに済ませ、一緒に家を出た。
「真緒はお姉さんに似てるな」
「うん、よく言われる!」
手を繋いで道を歩く。
それだけでも俺は満たされていて、幸せを感じている。
「でもね、最近お姉ちゃんと喧嘩することが多いんだよね。お姉ちゃんには恋人が居ないから嫉妬してるみたい。」
困った表情をした真緒に、俺はやっぱり何も言えない。
「最近不良みたいな人とつるんでたりするし、ちょっと怖いからやめてほしいんだけどね。」
「······そう」
そんな真緒の不安は的中した。
それは秋の終わり、寒さが厳しくなってきた日のことだった。
***
俺達はまだ先に進めないでいる。
これからずっと一緒にいるんだから、焦ることは無い。
俺も、きっと真緒もそう思って日々を過ごしていた。
「今日お姉ちゃんの友達が家に来るんだって。」
「そうか。」
「もっと長い間誉君と遊びたかったなぁ」
ある日の休日。
午前中から映画を観に行ったその帰り。
午後には家族との用事があるから帰らないといけなくて、真緒は拗ねたように唇を尖らせる。
「ごめんな。また明日遊ぼう」
「······本当?」
「うん。迎えに行くよ」
「やった!」
真緒を家まで送り、別れ際にキスをして、俺は家に帰った。
吐いた息が白い。
明日も寒いのかな。
それならどこか温かい室内でデートするのがいいかもしれない。
明日の計画を立てながら帰路を歩く俺には、真緒の叫び声も何も届かなかった。
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