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第560話
真緒が落ち着いてまた眠りに落ちる。
今にも消えて無くなってしまいそうなほど衰弱してしまっている。
大丈夫。俺がずっと傍にいる。
一生掛けて、その傷を癒していく。
──······だから、生きて。
そう祈りながら血色の消えた唇に、そっとキスをした。
真緒を強姦した真子さんの友達はすぐに逮捕された。
真緒は相変わらず幻覚を見ては、深く傷ついて泣き続ける。
それを見た俺は、俺の両親と真緒の両親に許可を貰って、真緒の家に暫く住まわせてもらうことになった。
夜中に何度も魘される真緒を、嫌な夢から守るように抱き締めて、少しでも安心できるように優しく何度も名前を呼び、言葉を掛ける。
そんな日々が1ヶ月続くと、真緒は少しずつ俺とコミュニケーションが取れるようになってきて、朝は『おはよう』から始まり、夜は『おやすみ』を言い合う。
「真緒、今日は良い天気だよ。」
「······本当、だね」
まだ笑顔は見られないけれど、それでも良かった。
同じものを一緒に見て、聞いて。
それができるだけで泣ける程に嬉しくなる。
「誉君」
「何?」
ベッドに腰かける真緒の隣に座り、前よりも永くなった真緒の髪をサラサラと梳く。
「初めては、全部······誉君とが、よかった······」
真緒の透き通るような綺麗な目から、静かに涙が零れていく。
「初めては全部俺とだよ。」
「······そう、だっけ······?」
「そうだよ。」
少しでも嫌な記憶を忘れられるように。
真緒の頭を胸に抱いて、背中を撫でる。
「愛してるよ、真緒。」
以前よりも細くなった真緒の体は、強く抱き締めると折れてしまいそう。
そのまま、力なく俺にもたれかかった真緒。
顔を覗き込むと目を閉じて眠っていた。
そっとベッドに寝かせて、手を握る。
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