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第561話
真緒が深く眠ったのを確認して、静かに部屋を出た。
すると廊下に出てすぐ真子さんとたまたま会った。
彼女はあの日、強姦されることは無かったらしい。それは心の底から良かったと思えるけれど、俺はどうしても疑がってしまう。
真子さんは目の前で真緒が犯される様子を見ていた。
それは悲惨な現場だったと思う。
全てが終わった現場を見たお母さんは今でもそれを思い出して泣いている時がある。
それなのに、真子さんは平気なのだ。
いや、もしかしたら隠しているだけなのかもしれない。
けれど、いつも笑ってる。
自分の母親が真緒の事で泣いているのに、まるでどうでもいい事のように無視している。
それに、最近は真緒が夜中に幻覚を見て泣いていると、うるさいと文句を言いに来るようになった。
「真緒は寝てるの?」
「あ、はい。今眠りました」
そう言うと彼女は口元に笑みを浮かべる。
真緒のあの可愛い笑顔とは違う、何かを企んでるかのような裏があるような笑み。
「もう疲れたでしょ。」
「え?」
「真緒の世話。毎日毎日泣き喚いてうるさいし、私も睡眠不足で肌荒れちゃうし。誉君もいい加減疲れたでしょ?」
なんで、そんなことが言えるんだろう。
この人は確かに被害者の1人だ。
けれど、事の発端はこの人の友達だ。
女友達が帰る時に一緒に男友達を追い出せばよかった。
「真緒は······まだあの時の幻覚を見るんです。それだけ怖かったんだと思います。そうやって苦しんで泣いてる真緒を見て助けてあげたいと思う。真緒は俺の大切な人だから。」
「······そう。期待外れ」
「······さっきから何を言ってるんですか?」
さっきから聞こえてくる言葉は、どれも真緒を思ってのものではない。
まさか、と有り得ない考えが頭を過る。
「だから、期待外れなの。真緒が襲われて汚れたら誉君が真緒を拒絶して、そのうち私のものになると思ったのに。」
「······は?」
「真緒だけ優秀なアルファの番にして貰えるなんてムカつくでしょ。アルファにはなかなか会えないし、それなら私が真緒から誉君を奪おうと思ったの。」
さっき頭を過った考えが、だんだんと事実になっていく。
「だから男友達を呼んで真緒を襲わせた。私は疑われないように拘束してもらってね。真緒は泣き叫んでたし、すごく痛そうだったけど、あれくらいしないと誉君が真緒から離れないと思って。まあ、それでも無理だったってことは、初めから無意味だったわ。」
あまりにも酷い事実に、目の前が真っ暗になるような感覚に陥った。
今すぐこの女を殺してやる。そう思って手を伸ばしたのと同時に、後ろのドアが静かに音を立てて開く。
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