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第562話
ハッとして振り返ると、真緒が立っていた。
何の感情も灯らない目で、俺を通り越して真子を見ている。
「お姉ちゃん」
「聞いてたの?」
真緒は俺を押し退けると手を振り上げ、真子の頬を叩いた。
バシッと大きな音が鳴り、すぐに音が無くなる。
「······大嫌い」
「大嫌いなんて、子供みたい。それだけで済むの?全部聞いてたんでしょ?」
「誉君は絶対にお姉ちゃんのものにはならないよ。誉君は誰よりも優しい人だから、お姉ちゃんみたいに汚くて酷くて、最低な事をする人を好きになんかならない。」
真緒はそう言って俺を振り返る。
「そうでしょ?誉君」
「うん······」
「誉君は渡さない。絶対に」
真緒に手を伸ばして抱き締める。
大丈夫。俺は絶対に真緒から離れない。
「お母さんとお父さんが悲しむから、この事は言わない。」
「っ、それで私を庇ってるつもり!?」
「違う。お姉ちゃんを庇うんじゃない。家族を守るの」
真実を話して家族が壊れてしまわないように。
真子はその場で力なく座り込み、それを冷めた目で見下ろした俺は、真緒を抱き上げて部屋に戻る。
「巻き込んで、ごめんね。誉君」
「······違う。真緒は何も悪くない。」
ベッドに寝かせて、悲しい真実に堪えきれずに泣いた。
本当は真緒が泣きたいはずなのに。
「誉君、疲れちゃったね。」
「······ごめん、情けないところ見せて。」
「ううん。誉君の泣いてるところ、ちゃんと見たのは初めてだからちょっと嬉しい。新しい誉君を知れた」
細くて白い指が、俺の頬を滑る。
「誉君、愛してるよ。今までも、これからも。誰よりも何よりも、世界で1番愛してる。」
「俺も、真緒が1番だよ。」
真緒が久しぶりに笑顔になった。
それは作られた笑みじゃなくて、前までよく見ていた可愛いあの笑顔。
胸が切なくなって、また涙が零れた。
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