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第566話
一体いつになれば誉は救われるのだろう。
眠った誉を見ながら、叶うかどうかもわからない未来のことを思う。
真緒と誉は決して番ではなかった。
契約もしていない、ただの恋人。
それでも、お互いを深く深く愛していた。
コンコンと控えめなノック音が聞こえて、ドアの方を見ると誉のお母さんがいた。
久しぶりに見る姿。立ち上がって頭を下げる。
「お久しぶりです。すみません、連絡もせずに突然。」
「いいの。······誉はどう?」
それに曖昧に笑って答えた。
誉を見て哀しい表情をしたお母さんは、ベッドの縁に座り優しく頭を撫でている。
「今も、苦しんでるのね。」
千紘や皆の前では堂々として、ちょっと取っ付きにくくて、冷たい雰囲気を醸し出している誉は、本当は誰よりも一途で、愛情深くて、優しい男。
「お墓参りに行くって聞いていたわ。」
「······そこで真緒の姉を見たらしいです。」
お母さんは「それで······」と納得した様子で、誉の手を握る。
きっと、次に目を覚ました時、誉はいつも通りに戻っているんだろう。
まるで何も無かったというように、堂々としているはず。
そんな姿を見せられたら、俺は何も言えない。俺もいつもと変わらず誉に接することが正しいことだと思う。
けれど、いつか誰かに見つけ出してほしい。
本当の誉を。
今も苦しみ続けている誉を。
いつか。
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