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第571話

それから渡の自己紹介が始まった。 誕生日に血液型、家族構成まで教えられてついつい笑ってしまう。 「えっ、俺何か変な事言いましたか······?」 「いや、続けて。」 どういう食べ物が好きで、嫌いで、お気に入りの場所だったり、得意な科目だったり。 本当に様々なことを教えられて、話す内容が無くなってきたらしく、渡は慌てて必死に考えている。 「お前の事は大体わかったよ。」 「ほ、本当に······?」 「本当。今は思い付かなくても、また話したい事ができたらいつでも話をしに来ればいい。」 そう言って立ち上がると渡は嬉しそうに目を輝かせ、明るい声で「はい!」と返事した。 「気をつけて帰れよ。じゃあな」 寮の方に足を向ける。 少しだけ、楽しいと思える時間だった。 胸の中に巣立っている寂しさが少しマシになる。 寮の部屋に帰ると、朝遅刻しているからと脱ぎ散らかしたままの服を片付けて部屋着に着替えた。 ソファーに座り、ふぅと息を吐いた途端、苦しいくらいの切なさに襲われる。 真緒に会いたい。 会いたくてたまらない。 偉成と松舞が羨ましい。 愛しい存在が手の届く場所にいる。 言葉を投げると返してくれる。 寂しさで眠れない夜なんてきっとないんだろう。 平然を繕っていたけれど、正直もう限界だった。 真子を見たからだ。 やはり、どうして真緒に会いに行けたんだろうと疑問を感じる。俺には真子が真緒に会う資格は無いと思う。 「······出掛けるか」 上からダウンを羽織り、部屋を出ようとドアを開けると、そこには松舞の姿。 「あれ、先輩出掛けるの?」 「······何か用か?」 「一緒にご飯食べないかなって。ちなみに今日は鯛の煮付けです。」 「······偉成に何か言われたのか?」 松舞は多分、俺を苦手に思ってるはずだ。 必要以上に話をしたりしないし、話をすれば説教じみていたり、悩みに対して松舞が望む言葉を言わないから。 それなのにわざわざ食事に誘いに来るなんて、偉成が何か言ったに違いない。 「え、偉成は鯛の煮付けは先輩が好きだったなーって言ってましたけど。······先輩のお出掛けって今日じゃないとダメですか?」 「······いや」 「じゃあ一緒に食べましょうよ。ほらほら服脱いで」 強引に服を脱がされ、松舞達の部屋まで結構な強い力で腕を掴まれ連れていかれる。 部屋につくと偉成が目を見開いて俺を見た。 「おお、誉を連れてこれたのか。すごいぞ千紘」 「お出掛けするところだったみたいだけど、お願いしたら来てくれたよ!」 お願いなんかされてないし、むしろ強引に連れてこられたけれどそれは言わないでおく。 席に着いて待っていると、美味しそうな料理がテーブルに次々に並んだ。

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