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第572話
いつもは静かな食事が、今日は賑やかだ。
生徒会で話し合ったことや行ったことを楽しそうに話す松舞。
「でね、今中庭の改装計画をしてるらしくて──······あ、そういえば先輩、今日中庭に居ましたよね?」
「ああ、居たな。」
唐突に話を振られたけれど、ちゃんと聞いてはいたので返事をする。
「俺も改装計画のために中庭にいたんですけど、先輩は誰かと話してませんでした?見た事ない顔だったから1年生?」
「ああ。渡泰介。オメガだと」
「オメガの子と話?······はっ!まさか告白!?」
何が楽しいのかワクワクしながら俺を見る松舞に眉を寄せる。
「違う。渡の事について話を聞いていた。」
「お前が興味の無い他人についての話を聞くなんて珍しいな。」
偉成は興味ありげに口角を上げる。
「番になろうとしてるわけでも、抱いてほしいわけでも無い。ただ自分のことを知ってほしいって言われて断れるほど、俺は鬼じゃない。」
「何その子······凄く可愛いね、偉成。健気というかなんというか······。先輩、その子大切にしてあげてくださいね。俺は会ったことないけどきっと凄くいい子ですよ」
松舞の言葉に頷く。
俺自身もそう思った。初めは暇潰しだったけれど、一生懸命な姿を見て、俺も渡の話はちゃんと聞かないとって思わされる。
最後の一口を食べて、手を合わせ「ご馳走様」と伝えた。
食器を運ぼうとすると、そのままでいいと松舞に止められて、その言葉に甘える。
部屋に帰るために靴を履き、後ろに居た偉成を振り返った。
「美味かった。ありがとう」
「いや。······誉、さっきの話だが。俺は誉がどんな選択をしてもいいと思ってる。」
いつもなら聞き流すような言葉を、今日は真面目に聞く。
「······俺には真緒だけだ」
「そうか」
切なげに伏せられた瞼。
それを見て堪らなくなって、部屋を出る。
後ろ背にドアを閉め、溜息を吐いた。
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