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第573話
翌日も、その次の日も、渡は現れた。
廊下で出会って立ち話をする時もあるし、教室で座って時間を気にせず話すこともある。
「あの、高梨先輩」
「何?」
またモジモジしてる。
渡は何かお願いしたい時や、緊張する時はこうして体をモジモジさせる癖があるらしい。
わかりやすいやつだ。思わずふっと笑う。
「何か俺にしてほしいことがある?」
渡が言い出しやすいように促すと、忙しなく視線を動かして、最後に俺をちらっと見る。
「ほ、誉先輩って、呼びたいです······」
「······呼べばいいだろ。」
クスクス笑うと渡はホッとしたように息を吐き、それから身を乗り出して「もうひとつ!」と人差し指を立てる。
「俺のこと、泰介って、呼んでほしい」
「ああ、わかった。泰介な」
パァっと表情が明るくなり、嬉しそうな笑顔が咲く。
つられて笑うと、泰介は目を見開いて固まった。まるで見た事の無い生き物を見た時のように驚いている。
「誉先輩がそうやって笑うの、初めて見ました。」
「俺も人間だから笑うけど。」
「だって······感情の起伏がないというか······。あんまり怒ることもなさそうだし、泣くこともなさそうです。」
そんなこと、あるわけないのに。
苦笑を零すと泰介は慌てたように手を左右に振った。
「違うんです!馬鹿にしたんじゃなくてっ!」
「何も言ってないだろ」
「ひいぃ、ごめんなさいぃ」
だから、何も言ってないって。
「何とも思ってないから安心しろ。······それより、他の友達とはちゃんと話してるのか?最近気付けば俺の横にいるだろ。」
話題を変えようと、そう聞くとあからさまに表情が曇った。
「え······あー、えへへ。実は俺クラスでハブられてるんです。オメガなのは俺1人だけで······。まあ、いじめられないだけましなんですけどね。」
いじめられないだけましだなんて嘘だ。
きっと泰介は寂しがっている。だから度々俺の所に来ては、自分を知ってもらおうと話をする。
「寂しいのか」
「······そんなハッキリ言わないでくださいよ。頷きにくいじゃないですか。俺だってオメガだけど男ですよ?」
眉尻を下げて小さく笑った泰介。
思わず手を掴んで、松舞のいる教室まで行く。
「えっ!?どこ行くんですか!」
戸惑いながらもちゃんと足は動かして抵抗しない泰介。
松舞のクラスについて中を覗けば、松舞と小鹿に匡がいた。
「松舞!」
「はい?」
名前を呼ぶと松舞はすぐに反応して、俺を見ると驚いたように立ち上がり駆け寄ってきた。
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