574 / 876

第574話

「高梨先輩が俺に会いに来てくれるなんて珍しいじゃないですか。どうしたんですか?」 松舞はそう言って、俺に手を掴まれて戸惑っている泰介を見た。途端に口を両手で覆う。 「誘拐はダメですよ!」 「してない」 「ですよねー。」 何が楽しいのかにこにこ笑う松舞は、泰介を見て首を傾げた。 「もしかして渡泰介君ですか?」 「あ······はい。」 「俺は松舞千紘です。えっと······高梨先輩の幼馴染の番です。ついでに生徒会書記です」 簡単に自己紹介をした松舞に、泰介を渡す。 突然の事で松舞も泰介も困惑している。 「泰介、松舞もオメガだ。俺なんかよりずっとフレンドリーだし、もっと話しやすい事もあるだろう。俺とだけじゃなくて、他の奴とも話をしろ。折角白樺に来たんなら良いアルファをみつけるきっかけも作ればいい。」 早口でベラベラ喋る。それを唖然としながら聞く泰介と松舞。 その2人を放置して踵を返す。 もうすぐで卒業する俺とだけ話しているのは勿体ない。 あいつは面白いやつだし、人の気持ちも考えられる優しい性格をしているんだ。きっかけさえあれば誰とでも仲良くなれると思う。 泰介にとっての高校生活はまだ長い。 話し相手が居なくて寂しがっている泰介に出来ることは、残りの生活を今より少しでも楽しく過ごせるようにしてやる事くらい。 「あれ、誉?」 「偉成か。何してる?」 「それは俺の台詞だ。俺は今から千紘に会いに行く。」 「松舞なら今は渡と話をしてると思う。」 偉成は「何で?」と言いながら小首を傾げるけれど、説明するのが面倒くさくて「さあ」と言って偉成の隣を通り過ぎる。 「説明してくれたっていいじゃないか。渡って奴はオメガだとは聞いたけど、男だぞ。俺の千紘がもし襲われたら······」 呆れて溜息を吐きながら、首を左右に振る。 「安心しろ。そんなことするような奴じゃない。」 振り返って偉成を見れば、俺から何かを探るかのようにじっと目を見てくる。 負けずに視線を絡めたままでいると、その内偉成はふっと笑って松舞のいる教室まで歩いて行った。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!