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第575話 千紘side
どういう状況だ、これ。
1年生の渡君を高梨先輩から預かった。
けれど、何で。
「えっと、渡君。とりあえずあっち行かない?俺の友達も紹介するよ。」
「あ、は、はい!」
渡君を連れて優生君と匡のところに戻ると、不思議そうな表情で渡君を見た。
「この子は1年生の渡泰介君。高梨先輩の最近のお気に入りの子。」
「えっ、あの高梨先輩の······」
匡があからさまに表情を歪める。
「高梨先輩、話がどうたらって言ってたけど、あれどういう事?」
渡君に聞くとゆっくり口を開いた。
「俺、オメガで友達が居なくて······。それどころかクラスでハブられてて。それを誉先輩に言ったらここに連れてこられました。」
ハブられてるって聞いて、腹が立つ。
そんな事するなんて最低だ。
「最低だねそいつら。」
「あ、はは······でも、俺がオメガだから仕方ないです。」
「仕方なく無いよ!」
そういう差別に1番嫌いだ。
イライラしていると、突然視界が真っ暗になった。
どうやら目元を覆われたらしい。けれど焦ることは無い。
この匂いは俺の大好きな匂いだから。
「偉成」
「千紘の怒ってる匂いがするな。俺はこの匂いも好きだけど、もっと甘い匂いの方が千紘らしくて好きだよ。」
視界が明るくなって振り返ると、偉成が優しい表情で立っていた。
「何でいるの?」
「んー、千紘が呼んでる気がした。」
人目も憚らずキスをしてきた偉成。
同じクラスの人はもう俺達に慣れて特に何も思わないのは知ってる。けれど渡君はそうじゃないはず。
慌てて渡君を見ると真っ赤な顔で目を見開いて固まっていた。
「ぁ、あぅ······き、きす、した······っ」
「おい1年もいるんだから遠慮しろ。」
匡に怒られた偉成はキョトンとしている。
優生君が小さく笑いながら渡君の頭を撫でて、漸く動き出した渡君は目を両手で隠したけど、もう遅くないかな、それ。
「1年?······あ、もしかして誉のお気に入り?確か渡泰介だっけ?」
偉成が俺の腰に腕を回し引き寄せられる。
「うん。渡君。なんか、オメガだからってハブられてるって。」
「なるほど。それで怒ってたんだな」
偉成の唇が項に触れて、体にピリッと甘い感覚が走る。
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