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第577話
「誉のこと?······ハッ!もしかして誉が好きなのか!?」
それを聞いて、俺も匡も優生君も視線を渡君に向ける。
「······好きです。本当はすごく好きなんですけど、番になってくれないって言うのはわかってるんです。だから兎に角、誉先輩が嫌がるようなことを知らない間にしたくないから、教えてほしいんです。」
真っ赤な顔で照れながら、けれど少し寂しそうに言う渡君に胸が切なくなる。
「······確かに、誉は番を作らない。それをわかってて、どうして離れないんだ?」
「きっと、後悔すると思うんです。だからせめて、近くに居れる間はそうしたい。」
本当に恋をしている顔だ。
幸せそうな雰囲気が伝わってくる。
偉成は俺の上で小さく息を吐く。
「一途なんだな。」
「この性格が誉先輩に鬱陶しく感じられないか不安ですけど」
「誉はそんなこと思わないよ。」
偉成が優しくそう言うと、渡君は嬉しそうに笑った。
それがあまりに可愛くて俺もつられて笑っちゃう。
けれど何故か偉成はピクっと動いて、眉間に皺を寄せた。
「偉成?」
「······お前は誉の前で笑っていればいい。」
偉成が俺を離して、渡君の肩をガシッと掴む。
「誉は誰よりも優しい。もしきつい言葉を言われても、それは全部渡の為に言っている。どうしても嫌にならない限り、離れないでやってくれ。」
渡君は理解出来ていなかったようだけど、それは俺も匡も優生君も同じ。
「誉はちょっとやそっとのことじゃ傷つかないようになってしまってるからな。渡自身が思うように行動すればいい。当たって砕けろだ。もしも失敗したならその時一緒に考えよう。」
「は、はい!」
「よし!」
偉成は何故か嬉しそうだ。
香ってくる匂いも、優しくて少しさっぱりとした、そんな匂いだった。
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