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第590話

翌日、登校して自分の席に座っていると、教室をひょっこっと覗く泰介の姿が見えた。 クラスメイトはもう泰介の事を知っていて、すぐに俺に声をかけてくる。 「高梨、渡が来たぞ」 「······ああ」 別に泰介が俺を呼んだわけでもないのに、俺に用事があるんだと勝手に判断して。 「せ、先輩っ」 「ああ。何」 席を立ち、泰介の傍に行くと震えた声がその唇から零れる。 「話、したくて······き、昨日の、ことです······」 「······今からか?授業はどうするんだよ」 「······授業より、先輩と話がしたい。」 時計を見れば、授業開始時刻まであと10分。 正直、俺も授業の内容より泰介の話の方が気になる。 「わかった」 どこか、誰にも邪魔されない場所に行きたい。 ハッと思いついて、生徒会室に足を向ける。 「どこに行くんですか?」 「生徒会室。」 「え、でも勝手に使って······」 「元副会長だし、誰にも何も言われない。」 今の生徒会長は匡だし、何か言われたところでどうも思わないのが事実。 生徒会室に入ればシーンとしていて、誰も居ない。 ソファーに腰掛け、俺の对にあるソファーに座った。 「昨日のこと、なんですけど······」 圧を出さないように心を落ち着けながら、話に耳を傾ける。 「真子さんとは、地元での知り合いなんです。というよりも小学校が一緒で仲が良かったんです。中学からは俺が性別の事で虐められて引越ししたから会ってなかったんですけど······。それで、高校に入学してから小学校の同級生と会いたいなって連絡を取って、地元に帰った時にたまたま再会しました。」 そんな偶然があるのかと内心驚いた。 もし泰介が中学の時に引っ越さなかったら、俺とも出会っていたのかもしれないということか。 「小学校の時の真子さんは凄く明るい人だったのに、その時会った真子さんはすごく暗くて、笑うこともなかったんです。だから何があったのか聞いたら、家族が自殺したって言ってて······。」 その話を聞いてイラッとした。 原因は全てお前なのに。 「······真緒の事だな」 「はい。······真子さんがした事も、そのせいで真緒さんが自殺した事も聞きました。」 そこで言葉を切った泰介。 もしかして、真緒と俺が付き合っていた事は聞いていないのか。 「真子さんにどこの高校に行ってるのか聞かれて、白樺って言ったら、すごく驚いていたんです。」 「······そうか」 「誉先輩の事を知ってました。それで沢山教えてくれたんです。誉先輩は誰よりも優しくて、愛情深い人だって。それを聞いて、俺は誉先輩の事を知りたくなったんです。」

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