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第593話

「そんなこと、誉が1番わかってるに決まってるだろ。」 「······」 「真緒を1番理解してるのは誉だ。真緒が誉には進んでほしいって思うだろうってことは誰よりもわかってる。」 でも、誉がそうしない理由がある。 「じゃあ、何でですか?」 「······これは、俺の憶測でしかないが······、昔誉と話した時に、真緒は寂しがり屋だって聞いた。多分、真緒が寂しくないようにそこに留まってるんだ。」 「そんなのわからないじゃないですか。それに······亡くなってしまったなら、もう関係ないですよ。生きてる人間のしたい様にさせてあげるべきです。」 もっともな意見に同意はするけれど、誉の行動は誉自身が決めること。 ましてや1番大切にしている真緒に関係することだ。他人にどうこう言われる筋合いはないと誉なら言うだろう。 「誉は真緒を少しも忘れたくないんだ。そこに留まることで忘れることは無いだろう?」 「別に、忘れろなんて言ってません。······誉先輩も赤目先輩も極端です。」 「そうだな。でもそれが大切な人を持ったアルファのすることなんだと思う。」 もし千紘を失ったら。 そんなこと考えたくもないが、俺は一生千紘以外のオメガと番になることは無いだろう。 きっとそれは俺に出来る千紘への最大の愛情表現。 「わかってくれなくていい。これはアルファの独り善がりな考えだから。」 「違うっ!」 突然大声を出した渡に驚いて目を見張る。 「誰だって大切な人が居なくなったらそうなると思うっ!でもそこで留まってる人ばかりじゃないでしょっ!?」 「············」 「俺なら、留まってそこから抜け出せずに悲しんでる大切な人を見ていたくない。誰よりも幸せになって欲しい。」 千紘にそう言われたなら、俺は千紘の言う通りに動けるのだろうか。 自分の幸せを見つけることができるのか。 「前にも言ったけど、俺は誉先輩が好きなんです。だからこそ幸せになって欲しい。······ううん、俺が幸せにする。」 「······うん?」 「誉先輩に気持ちを伝えます!」 「え、お、おい!!」 走って行った渡。 俺は1人ぽつんと取り残され、さっきの話を頭の中でリピートする。 「······誉が好きなのは知ってたけど、今伝えるのか。」 猪突猛進というか、なんというか。 「偉成ぇ、もういい?」 仮眠室のドアをちらっと開けて覗く千紘に頷いてみせる。 「あれ、渡君は?」 「······誉に告白しに行った」 千紘は「へ?」と素っ頓狂な声を出して驚いていた。

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