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第596話

「嫌だ······俺は誉先輩がいい······っ」 誉先輩に詰めるように縋ると、困惑しながら俺を抱きしめてくれる。 「番にはなれない」 「っ、な、ならなくたっていい」 「······お前の高校生活が無駄になる」 「ならないっ!」 そんなことは俺が決めるんだ。 顔を上げて誉先輩を見る。 「傍にいたい」 「······勝手にしろ」 最後は先輩の方が折れて、俺の好きにさせてくれることになった。 「······えへへ、やったぁ」 嬉しくて思わず笑うと、先輩がビシッと固まった。 「うぇっ!?」 後頭部に手が回され、先輩の胸に顔を押し付けられる。突然そんなことされて苦しい。でも嫌じゃない。柔軟剤か先輩の匂いかわからないけど、優しくてサッパリしたような香りが鼻腔を掠める。 「っ先輩?」 「ちょっと、そのままでいろ」 よくわからないけど、頷いた。 でも待って。誉先輩は俺の好きな人で、その人の胸に顔を付けてるなんてそんな······そんなっ!! 「悪い、もういいぞ。」 「············」 手が離されて、誉先輩と俺の間に隙間ができた。 そしてそのまま動けない。 だって、頭がパンクしちゃった。 「泰介。······泰介?」 「はぅ······っ」 両手で顔を覆い、後ろに転げる。 きっと俺の顔は真っ赤だ。顔だけじゃない。首も耳だって熱い。 「泰介!?」 「見ないで······」 恥ずかしい。 先輩の匂い嗅いでちょっと蕩けちゃってたことも、先輩の逞しい胸に顔を付けて、喜んだことも。 「お前、なんでそんなに真っ赤になってんの······」 「だから、見ないでってばぁ······」 そう言ったのに、やっぱり汚れるからって優しい先輩は俺を起こして、傍のベンチに座らせてくれた。

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