596 / 876
第596話
「嫌だ······俺は誉先輩がいい······っ」
誉先輩に詰めるように縋ると、困惑しながら俺を抱きしめてくれる。
「番にはなれない」
「っ、な、ならなくたっていい」
「······お前の高校生活が無駄になる」
「ならないっ!」
そんなことは俺が決めるんだ。
顔を上げて誉先輩を見る。
「傍にいたい」
「······勝手にしろ」
最後は先輩の方が折れて、俺の好きにさせてくれることになった。
「······えへへ、やったぁ」
嬉しくて思わず笑うと、先輩がビシッと固まった。
「うぇっ!?」
後頭部に手が回され、先輩の胸に顔を押し付けられる。突然そんなことされて苦しい。でも嫌じゃない。柔軟剤か先輩の匂いかわからないけど、優しくてサッパリしたような香りが鼻腔を掠める。
「っ先輩?」
「ちょっと、そのままでいろ」
よくわからないけど、頷いた。
でも待って。誉先輩は俺の好きな人で、その人の胸に顔を付けてるなんてそんな······そんなっ!!
「悪い、もういいぞ。」
「············」
手が離されて、誉先輩と俺の間に隙間ができた。
そしてそのまま動けない。
だって、頭がパンクしちゃった。
「泰介。······泰介?」
「はぅ······っ」
両手で顔を覆い、後ろに転げる。
きっと俺の顔は真っ赤だ。顔だけじゃない。首も耳だって熱い。
「泰介!?」
「見ないで······」
恥ずかしい。
先輩の匂い嗅いでちょっと蕩けちゃってたことも、先輩の逞しい胸に顔を付けて、喜んだことも。
「お前、なんでそんなに真っ赤になってんの······」
「だから、見ないでってばぁ······」
そう言ったのに、やっぱり汚れるからって優しい先輩は俺を起こして、傍のベンチに座らせてくれた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!