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第599話
「っ!」
突然手で鼻と口を覆った彼。
俺の荷物を勝手に取って胸に押し付けてきた。
「抑制剤打て!」
「え?」
「匂い漏れてる!早くしろ!」
理解出来ないまま、抑制剤を取り出して太腿に針を刺した。
痛くてギリッと奥歯を噛み締める。
「何で急にフェロモン漏らしてんだよ」
「そんなの知らないよ······」
クラスメイトの目が俺を見てる。
薬が効くまではここから出ていく方がいいかもしれない。
「えっと······あの、君の名前は?」
「森 辰明 」
「森君、ごめん、俺ちょっと薬が効くまで出てるよ。」
「そうしろ。······あー、1人で行かせるのはまずいな。」
そういうや否や、森君は俺の荷物を持って、一緒に教室の外に出た。
「オメガの専用の部屋に行けばいいんだろ?」
「あ······うん。でも、2限目始まっちゃうよ。俺は大丈夫だから」
「まだ匂いがするから送る。俺と別れたあとに襲われたってなったら胸糞悪い」
そしてオメガ専用の部屋まで送ってもらって、そこで少し休むことにした。
最悪だ。1限目はサボって、2限目は遅刻確定······。先生になんて言われるかわからない。
チャイムが鳴って、いよいよ項垂れた。
そんな時、スマートフォンが震えて、画面を見ると誉先輩からのメッセージが来ていた。
『柔軟剤の名前思い出した』
それだけのメッセージと、その後に画像が送られてきて、落ち込んでいた心がまた明るくなる。
「これかぁ。俺もこれ買おう」
すぐに返事をすると、またメッセージが来て、授業中なのに返信するなって怒られた。それは先輩自身もそうでしょって思う。
「正直に言おう」
実はフェロモンが漏れちゃってるみたいで休んでるって。
呆れられちゃうかな。またサボってるって怒られるかな。
メッセージを送ると、すぐに電話がかかってきた。びっくりして咄嗟に出る。
「はい!」
「今オメガの部屋にいるのか?発情期ではないよな?」
「はい。教室で話してたら、急にフェロモン漏れてるって言われて······。緊急抑制剤を打って今は部屋で休んでます。」
「······2限目もそのままそこで休んで様子を見た方がいい。何ともなかったら3限目から出ればいいだろうし、もしそのまま発情期に入ったら番のいるアルファや松舞達に言って寮に運んでもらうようにするから、すぐに連絡しろ。」
先輩の声を聞くとドキドキする。
熱が上がってきた気がして、急に唾液の量が増えた。
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