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第600話

「泰介?わかったか?」 「んっ、は、はい······」 息をするのが苦しくなる。 何で、おかしい。抑制剤は打ったのに。 「先輩ぃ······」 「うん、何?」 喉が乾いて、バッグに入れていた飲み物を取ろうとするのに、手に力が入らない。 「力、入んない······っ」 発情期は初めてじゃない。 だからこれが発情期だというのはわかるけれど、こんなのは初めてで怖い。 「こ、わい······先輩、怖いっ」 「落ち着け。大丈夫、抑制剤は打ったんだろ?」 「うん······」 打ったけど、効いてない。 ついに手からスマートフォンが落ちて、部屋にあるベッドに倒れ込む。 「ぅ、な、なにこれぇ······」 でも何で?発情期の予定はもっと先のはずなのに。 それにしても、いつもよりも熱くて我慢が出来そうにない。 「んっ、う、うぅ······っ!」 もう1本抑制剤を打ってしまおうか。 部屋に設置してある抑制剤に手を伸ばす。 「──渡君居る?」 部屋のドアがノックされ、扉が開く。 「失礼します······。あ、渡君居た!」 そこには松舞先輩がいて、俺を見て眉間に皺を寄せる。 「抑制剤はもう打ったんでしょ?続けて打つのはダメだよ。······でも、それだけ薬が効いていないってことか。偉成、病院に連れて行ってあげた方がいいかも。」 「タクシーを呼んでおく」 赤目先輩の声も聞こえてきて、また2人に迷惑をかけてしまったと後悔する。 「高梨先輩は?」 「あいつも抑制剤を打ったらすぐに来るって。······でも、この感じだと来ない方がいいかもしれないな。」 ぼんやりと2人を眺めていると、松舞先輩の手が頬に触れて、優しく話しかけてくる。 「病院に行くね。偉成も高梨先輩もいて守ってくれるから心配はないよ。安心して。」 「ぁ······は、い······」 「水分取らないといけないから、水飲もうね。」 背中を支えられ、ペットボトルが口元に当てられる。 口内にゆっくりと冷たい水が入ってきて、それが気持ちいい。 ごくごくと飲むと、今度は赤目先輩にそっと抱き上げられた。 「っ、うぅ······!」 「ちょっとの間我慢してくれ。千紘、誉は校門に居るから渡の荷物を持ってきてくれ。」 赤目先輩にお姫様抱っこされて、廊下に出る。 校門に近づくにつれて、体が熱くなっていく。

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