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第602話
寮に帰って、制御出来ない体の昂りをなんとか鎮め、とにかく3人が帰ってくるのを待つしかないとソファーに座って項垂れる。
「······真緒」
俺はどうすればいいんだろう。
真緒を裏切るようなことはしたくない。けれど、体が求めてしまう。
アルファの本能に逆らえるやつなんていない。
そんな人間がいるなんて聞いたことがない。
自覚してしまえば、きっともう離れられないんだろう。
本能の赴くまま、体が動いて、気持ちはまだ追いついていないのに泰介を欲しがってしまう。
そんなの、泰介も傷つくに決まっている。
どうにか方法は無いのだろうか。
どのくらいそうしていたのか、病院から帰ってきた偉成が、泰介の甘い匂いを付けてやって来た。
「点滴を打ったらマシになって、今は寮にいる。······お前のあの反応でわかったけど、渡は運命の番なんだろ。」
「······みたいだな。」
偉成を部屋に通して、溜息を吐く。
「運命の番はどうしたら解消できるんだ」
「······まさか渡と向き合わない気か?」
「本当はそうしたい。でも体が言うことをきかない。本能だけで動き出して······さっきも泰介をお前から奪おうと勝手に······」
こんなにも強いものだとは知らなかった。
偉成と松舞は、これに繋がれているのか。
「運命の番を見つけたアルファは、何がなんでもそのオメガを手に入れようとする。······俺もそうだった。解消なんて出来ない。だから運命なんだ。」
「クソ喰らえだな」
「お前が真緒を大切に思ってることは渡だって知ってる。蔑ろにするわけじゃない。罪の意識は持たなくていい」
ぐっと奥歯を噛み締める。
俺はまだ、泰介を好きなわけでもないのに、運命の番だからってこんなにも早く話が進んでいく。
「どうせ本能が渡を求めて、この部屋にこさせるようになると思う。先にここに渡がいてもいいように手続きだけしておけ。」
「······わかった」
胸が苦しいけど、仕方がない。
手続きに偉成も付き添ってくれて、それが終わると自然と足がオメガの寮に向かっていた。
それに気が付いて歩みを止める。
「行くんだろ?」
偉成にそう聞かれて唇を噛んだ。
「勝手に体が動くんだ」
「ああ。そのまま従え。そうすれば辛くない」
背中を押され、また足を出す。
本能に従え。そうすればきっと少しでも楽になれるはずだから。
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