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第603話

偉成が泰介を寮に送る時に使ってまだ返していなかった許可書でオメガの寮に入った。 泰介の部屋の前に行くと、微かに甘い匂いがして、ドアをノックすると鍵が開いて泰介がフラフラしながら俺を見る。 「ぁ、誉先輩······」 「······もう、大丈夫なのか」 腕が動いて泰介を抱き締めた。 泰介の匂いが強くなって、その首に顔を埋めた。 「っ、せ、んぱい」 戸惑って俺の胸を押してくる。小さな力は痛くも痒くもなくて、ただ触れられていることに安心できた。 「渡、もし良かったらこのまま誉の部屋に行ってやってくれないか。」 「え······?でも俺、発情期真っ只中ですよ。先輩に迷惑かけちゃう」 「もうわかってると思うが、お前と誉は運命の番同士だ。誉も本能で渡を求めてる。嫌じゃないなら傍に居てやってくれ。」 偉成と泰介が話をしているのが気に食わなくて、泰介の唇を自らの唇で塞いだ。 「んむっ!?」 「口開けろ」 「ぇ、あ······!?」 そのまま舌を絡ませる。 唾液が甘くて、夢中になって貪った。 泰介の服の中に手を入れようとすると、偉成に止められる。 「ここはダメだ。それに渡に許可も貰ってないだろ。」 「······部屋に帰る」 「ああ。」 泰介を見ると顔を真っ赤にして体をモジモジとさせている。 そのままひょいっと抱き上げて、渡を部屋に連れて行くことにした。 「部屋に入ったらすぐに全部の鍵を閉めろ。まだ番になっていないから、渡のフェロモンが漏れて他のアルファに噛まれる可能性がある。」 「わかってる」 今すぐにこの小さな体を抱きたい。 頭の中がクラクラする。 「歩けるから降ろして!先輩!」 「ダメだ。」 偉成と別れ、部屋に連れ込み、鍵を閉める。 緊張した面持ちでソファーに座る泰介を押し倒して、何度も何度も唇を合わせた。 「んぁ、はぁっ、は、先輩待って、やだ······っ」 「嫌って言うな」 相変わらず俺を離そうと手を伸ばす泰介。 その手を取って指先にキスをする。 「ちゃんと話したいっ」 「······抱きたい」 「俺の話聞いてた!?」 仕方なく足をバタバタとさせて暴れる泰介の上から退いて、泰介はソファーに、俺は床に座った。

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