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第604話
「あの······正直、俺、すごく戸惑ってて、どうしたらいいのかもわからないです。」
「だろうな。俺だってそうだ。急に運命の番だとわかって······。真緒の事もあるから、体だけが本能に従ってる。」
正直に話せば、泰介は悲しそうに眉尻を下げる。
そりゃあそうだ。心はついてきていないと言ったのと同じなのだから。
「先輩、は······俺のここ、噛みたいの?」
首輪の着いた項に触れる泰介。
それを見て心臓がドクドクと音を立てる。
「か、みたい······」
止められなきゃ、噛み付いてる。
じわっと唾液が分泌されて、荒くなる呼吸。
拳を強く握って、なんとか堪えた。
「でも俺のこと好きじゃないんでしょ?······そんなの寂しい」
「っ、それなら早く出て行け。本当に、2度と顔を見せるな。本能で何がなんでもお前を求めてしまうらしい。できるならこの学園からも居なくなれ」
俺が消えたって、ここに泰介がいると分かっているなら意味が無い。
酷いことを言っているというのは理解しているけれど、こうでもしないともっと辛い思いをさせてしまう。
「酷い言い方」
「······悪い。けど、それしか方法が無い。」
そう言って俯くと、泰介が俺の目の前に座る。
そして切なく微笑んだ。
「俺のことを好きじゃなくても、真緒さんを誰よりも何よりも愛してても、それでも俺は誉先輩が好きです。そうやって一途で優しい先輩が好き。」
「······泰介」
「今は俺のことを好きじゃなくてもいいやって、思うことにします。先輩の最期にちょっとでも俺のことを思い出してくれたらそれで充分だって。」
そんな寂しいことを言わせてしまうなんて。
目が熱くなって、頬に涙が伝う。
「先輩、泣かないで。」
抱き締められて、また苦しさが胸を満たす。
俺はきっと、誰のことも幸せにできない。
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