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第605話

泰介の細い指に涙を拭われ、そのままキスをされる。 苦しかった胸が楽になる。 もっと心を軽くしたくて、泰介の背中に手を回して、舌を絡めお互いに深く深く求め合った。 「っ、誉先輩······」 「誉でいい」 泰介の髪を撫でて、そっと押し倒す。 「ちょっと······ぁ、先輩······」 「だから、誉だって言ってんだろ」 唇に噛み付くと驚いた様に目を見開く。 「呼べないか」 「呼べ、ます······」 「その敬語ももういらない」 まだ好きじゃない。 心はずっと真緒の傍にある。 だからこそ、泰介には優しくしないと。泣かせてはいけない。 「わ、わかった······」 「ああ。」 泰介の匂いを嗅ぐと考える事が出来なくなっていく。体の熱が上がって、今度こそ泰介の服の中に手を入れた。 「ひゃっ!」 「触らせて」 「ま、待って、待って!」 手を押えられ、顔を見ると涙目で泰介に睨まれる。 「俺初めてだから、せめてもうちょっと······発情期が酷い時の方が痛くない気がする」 「······痛くする気は無いけど」 「そりゃあ、誉······君はそういう経験があると思うけど俺は初めてだから怖い」 「いつ俺が経験があるって言ったんだ?」 そういえば、真緒にも誉君って呼ばれていたなと思い出しながら、素直に思ったことを言えば、泰介は「え?」と声を漏らす。 「俺だって初めてだ。真緒とも、もちろん他の誰ともしたことは無い。」 事実を伝えると、泰介はプッと吹き出し、そのままケラケラと笑いだした。 「あははっ、意外すぎる!······でも、そっか。そうなんだ······。誉君の初めて、俺が貰えるの?」 ゴクッと唾液を飲み込んだ。 嬉しそうに笑ってそう言われると、幸せを感じて、泰介を抱き上げベッドに運ぶ。 「俺の初めてをやるから、泰介の初めてを俺にくれ。」 「っ、うん」 ああ、欲しい。 早く欲しい。 喉が渇いて仕方がない。

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